「ほら、出来たわ」

「わーすごーい。別人みたい」

「普段からやれば良いのよ」

「んー……自分ではやれないなぁ」


友人の手によってメイクとヘアアレンジが施された自分の姿を見ながらそう言えばパチンと勢い良く耳にイヤリングが付けられた。
痛いよーと文句を言ってみても友人は笑うだけで何も言わない。
もう片方も勢い良く付けられては堪らないので友人より先にイヤリングに手を伸ばした。


「ジョージに可愛いって言われると良いわね」

「だから、ジョージとは友達だって」

「今はね。でも何が起こるか解らないじゃない。いきなりヤドリギが頭の上に現れたりするかもしれないわよ」


そんなまさか、と呟いてイヤリングを付ける。
ジョージと私の間に友情以外の感情は存在していない。
ジョージは勿論フレッドやリーだって好きだ。
それがクリスマスにダンスパーティーに出たくらいで何か変わるんだろうか。
五年間の友人関係で何も変わらなかったのに。


「ほら、行くわよ」

「はーい」


友人達と玄関ホールへ行くとそこはとても混雑していた。
こんなに人が居るのにちゃんとジョージを見つけられるだろうか。
不安になりながら見渡すと案外簡単に見つかった。
側に居たアンジェリーナの手を引いて人混みを掻き分けて双子の元へ向かう。


「名前、よく見つけられたわね」

「二人が目立つからかなぁ」

「まあね。確かに二人は目立つわね」


アンジェリーナはそう言いながら肩を竦めた。
双子との距離が近くなると彼等も私達に気付いたらしい。
周囲の人に声を掛けて道を作ってくれた。
二人ともドレスローブを着ているからなのかいつもと雰囲気が違う。
しかし鏡の中の自分を思い出してそれはお互い様だ。


「お待たせ」

「やあ、二人とも変身したね」

「どうも。名前、じゃあね」

「あ、うん」

アンジェリーナはフレッドと腕を組んで人混みへ消えていく。
もっと他に言う事ないのなんて言うアンジェリーナの声が聞こえてくる。
フレッドはどんな言葉を返すのかな、なんて考えながらジョージと向き合う。
名前を呼ぼうと口を開いた瞬間、逆に名前を呼ばれた。


「名前だよね?」

「え、うん。私が知ってる限り名前は変わってないと思うけど」

「普段と変わってて少し驚いた」

「変かな?」

「似合ってるよ」


普段こんなやり取りなんかしないから、妙に照れてしまう。
ジョージも同じなのか、そっぽを向いて腕を差し出してきた。
手を添えて大広間の入り口の方へと歩く。
いつもと違ってジョージが歩幅を合わせてくれている事に気が付いて何だかそわそわしてしまう。


「なんか、変な感じ」

「変?」

「だって普段こんな事しないでしょ?」

「普段からしてやろうか?」

「そもそも普段はフレッドとリーと一緒に居る事の方が多いでしょう?」

「違いない」


ジョージがニヤリと笑ったのを見て不思議とホッとした。
相手はジョージなのだと忘れていた訳ではないけれど、改めて認識したようなそんな感覚。


大広間が解放されると同時にどんどん皆が進んでいく。
席に座って何気なく審査員テーブルを見て驚いた。
パーシーが得意気な表情で座っている。
ジョージに教えようと視線を向けると私と同じように審査員テーブルを見ていた。


「パーシーが居るよ」

「ああ……大好きなクラウチさんが居ないな」


そう言いながらもジョージはパーシーではない誰かを見ている。
改めて審査員テーブルを見てみるけれど誰かは解らない。
ジョージは私が気にしているのに気が付いたのか、もう審査員テーブルを見ようとはしなかった。


食事を終えるとダンブルドア先生が杖を振って広いスペースを作り、立ち上がったステージに楽器が設置されていく。
拍手で迎えられた妖女シスターズが音楽を奏で始めると代表選手達のダンスが始まる。


「あれ、ハーマイオニーか?」

「そうだよ。頑張って準備してたのを見たよ」

「変わるもんだな」


ジョージがハーマイオニーを見てしみじみと言うのが何だか面白かった。
徐々に他の生徒達も参加していくのに合わせて私もジョージの手を取る。
上手く踊れるか心配だったけれど意外とどうにかなっている、と思う。
これは間違いなくジョージのエスコートが上手なのだ。
フレッドやリーと部屋で練習したのかな、なんて考えると自然と笑ってしまう。


「どうした?」

「ううん、何でも」


顔を上げるとジョージが探るような目で見ていた。
もう一度何でもないと伝えると渋々納得してくれたらしい。
ダンスをする事に少し余裕が出てくると色々と気になってくる。
偶に何処かからか痛いと声が聞こえたり小声の会話が聞こえたり。
そして何よりもいつも以上に近いジョージとの距離だ。
こんなに近付く事なんて滅多にない。
気が付いてしまうと変にドキドキしてしまう。
これがパートナーが好きな人だったら大変なんじゃないだろうか。


暫く踊るとさすがに少し疲れてしまい、それを伝えると輪の外へ連れ出してくれた。
そして何処かへ行ったと思ったらバタービールを手に戻ってくる。
今日のジョージは立派な紳士のよう。
お礼を言いながら受け取るとジョージが隣に腰を下ろした。


「フレッドは上手くいってるかな」

「さっき、楽しそうに踊ってるの見たよ」

「えー、私見てない。教えてくれれば良かったのに」

「ごめんごめん」


笑いながら謝るジョージから目を逸らし、踊っている人達を見る。
恋人と行くと言っていた友人達を見つけて手を振るとウインクが返ってきた。
楽しそうに踊っているのを見ているだけで楽しくなってくる。
膝の上に置いた指でリズムを取っていたらフレッドとアンジェリーナが現れた。
二人とも髪が乱れているけれど一体どんなダンスをしていたのだろう。
隣に座ったアンジェリーナの髪を整えていたらジョージが立ち上がった。


「名前、少しジョージを借りるぞ」

「二人で踊るの?」

「まさか。野暮用ってやつ」

「戻ったらまた踊ろう」


ジョージの言葉に頷いて二人の姿を見送る。
もしかしたらパーシーに会いに行ったのかもしれない。
双子はパーシーをからかうのが大好きだ。


「はい、多分直ったよ」

「有難う。あの二人は何しに行ったんだろう」

「アンジェリーナ、聞いてないの?」

「少し休憩しようって言われただけ。せっかくのパーティーなのに置いてきぼりなんて酷いよね」


アンジェリーナの言葉に頷きながら視線を巡らせる。
するとルード・バグマンと一緒に居る双子を見つけた。
確か彼は審査員テーブルに座っていた筈。
あの時ジョージが見ていたのは彼だったのか。


「ねえ、名前とジョージって、恋人になったの?」

「ううん。ただの友達。やっぱりそう見えるのかな?」

「そう思ってる人は居るかもね。でも、ダンスパーティーが終わったら皆気にしなくなるさ」


ウインクするアンジェリーナに頷いてバタービールを飲む。
アンジェリーナはフレッドとどうなんだろう。
聞いてみようか悩みながら妖女シスターズについての話を聞いていたらフレッドとジョージが戻って来た。
揃って不満げな表情をしているけれどルード・バグマンと何かあったのだろうか。


「お帰り。随分ご機嫌が良いみたいだけど」

「ああ、勿論さ」


アンジェリーナの言葉にさっと表情を変えるフレッドには感心してしまう。
踊りに行く二人に手を振って見送る。
あっという間に二人の姿は見えなくなった。


「用事は終わったの?」

「ああ。踊る?」

「んー……それより少し外に行こうよ」


頷いたジョージが差し出した手を取って外へ向かう。
大広間の扉は開いたままになっているのに外に出て気温差に驚いた。
少し冷えるなと思っていたらジョージがショールを掛けてくれる。
わざわざ今日の為に用意してくれたんだろうか。


「ジョージは寒くない?」

「俺は平気。ちゃんと掛けないと風邪引くぜ」

「はーい。冬休みを耳から煙出して過ごすのは嫌だな」

「そうなったら写真を撮ってやろう」


のんびり歩きながら他愛もない話をする。
廊下には思っていたよりも人が居て、それなりに賑やかだ。
冬休みにこんなに人が残るなんて珍しい。


「名前」


突然名前を呼ばれ、腕を引かれた。
何事かと振り返るとジョージが上を指差してている。
その指差す先を見るとヤドリギがあった。


「何も起こらないんじゃなかった?」

「どうする?」


ジョージの表情から何か読み取れないかと観察してみるけれど解らない。
いつものようなふざけた雰囲気もなく、見つめられたまま。
本気なのか冗談なのか、どちらなのだろう。
判断出来ずに困惑していると腕を掴んだままだったジョージの手が離れた。


「なんてな」

「冗談だったの?」

「そう。大広間に戻るか」

「なんだ、驚いた」


いつも通りの笑顔を浮かべるジョージに安心して来た道を戻ろうと踵を返す。
一歩踏み出した瞬間、手を引かれ同時に頬に柔らかい物が触れる。
驚いてジョージを見れば珍しく動揺しているように見えた。
何でジョージが動揺しているのか全く解らないけれど、今のこの空気はとても居心地が悪い。


「ジョージ、戻ろう。せっかくのダンスパーティーだし、もっと踊ろうよ」

「ああ……うん、そうだな」


手を繋いだまま、来た道を戻る。
大広間に着くまでジョージはずっと黙ったままだった。




(20170311)
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