ダンスパーティーという単語を理解出来た時にはマクゴナガル先生がダンスの見本を見せているところだった。
練習を終えると友人達は一気にパートナーの話をし始めて、色々な人の名前が上がっている。
中にはあのハリー・ポッターの名前もあった。
確かにドラゴンの卵を奪った彼はかっこよかったけれど。
「名前は、誰か居ないの?」
突然話を振られて言葉に詰まってしまう。
誰か居ないのと聞かれても皆のように直ぐには思いつかない。
あの人は、この人は、なんて言われてもピンと来なかった。
周りがパートナーを決めていく中、私はまだ決まっていない。
何人か誘ってくれたけれどどうも苦手なタイプの人だった。
この際一人で行って料理を堪能するという手もある。
それも良いかもしれないなと思いながら大広間に入った。
すると先程声を掛けてきた人が別の人に声を掛けるのが見える。
彼もパートナーを決める為に一生懸命なんだろう。
「おーい名前、こっち来いよ!」
声のした方を見ると友人達が固まって座っていた。
その中で一際目立つ赤毛の双子。
手招きをしているのはどちらだろう。
双子なだけあって彼らは本当に似ているのだ。
友人達に近付くと此処に座れと言われたので素直にそこへ座る。
「さっきの彼、断ったの?」
「うん。よく知らない人だし」
「名前も決まってないのか。俺も早く相手見つけなきゃなぁ」
そう言いながらリーがキョロキョロと周りを見渡した。
料理を取り分けながら友人達のパートナー話を聞く。
もう何回目になるか解らない話なので殆ど聞き流していた。
だから急に顔を覗き込まれて驚いたのも仕方ないと思う。
「そんなに驚くなら何かやれば良かったな」
「充分だよ。驚きすぎてまだドキドキしてる」
「どうせなら悪戯で驚かせたいだろ?」
そんな事を言いながらニヤニヤと笑うのは双子のどちらか。
フレッドのような気もするしジョージのような気もする。
というか、今まで隣じゃなかったのにいつの間に席を替わったんだろう。
「名前はあんまり興味ないの?」
「ダンスパーティー?」
「何人か声掛けられてるの見たぜ」
「興味がない訳じゃないけど、よく知らない人だったから。うっかりヤドリギの下にでも行っちゃったら大変じゃない?」
「確かにな」
納得したように頷いて笑うのを見て何となくジョージかな、と思った。
フレッドならもっと茶化してくるんじゃないだろうか。
「ジョージは決まったの?」
「いや、まだ」
「早く誘わないと、アンジェリーナ他の誰かに誘われちゃうよ」
ジョージで合っていて良かったと思いながらそう言うと、ジョージはニヤニヤと笑って手招きをした。
内心首を傾げながら顔を寄せるとジョージは私の耳元へ顔を寄せる。
「アンジェリーナはフレッドが誘う予定」
「そうなの?」
「誰にも言うなよ?」
私が頷くのを見てニヤニヤ笑ったままジョージが離れていく。
偶然双子がアンジェリーナを誘おうと話していたのを聞いたから二人ともそのつもりなんだと思っていた。
アンジェリーナもまだパートナーが決まっていないのはもしかしたら可能性があるのかもしれない。
「じゃあ、ジョージはどうするの?」
「どうするかなぁ……決まらなかったら、一緒に行くか?」
「私とジョージが?」
「友達同士で行っても問題ないだろ。ヤドリギの下に居たって何も起こらないぜ?」
確かにと頷いてしまうとジョージはじゃあそういう事でとニヤリと笑う。
決まらなかったらねと付け足すと軽い調子で解ってるよなんて返された。
ジョージとあんなやり取りをしてから何となく気が楽になったのが一因かもしれない。
フレッドは無事にアンジェリーナを誘えて、私はジョージと行く事が現実味を増しつつあった。
ジョージなら友達だから気を張る事もないしそれでも良いと思う。
しかしそれもパートナーが見つかっていなければの話だけれど。
「ねえ、本当にジョージと行くの?」
「多分そうなるかな」
「じゃあ良い雰囲気になっちゃったりするのかしら」
「そういうんじゃないよ。ジョージとはただの友達」
つまんないと口を尖らせる友人に苦笑いしていると目の前にパンフレットを突きつけられた。
ドレスローブが並ぶそれを受け取り友人を見ればパンフレットを見ろと言われてしまう。
見たところで既にドレスローブは持ってきた物があるのだけれど。
そう伝えればそういう問題ではないと彼女は声を大にして言う。
「ジョージに好みを聞いてきなさい!」
「ええ……どうでもいいって言いそうだよ。恋人でもないのに。それにまだ一緒に行くって決まった訳じゃ」
ないのに、と言おうとした言葉は彼女によって遮られてしまった。
当事者の私よりも彼女の方が張り切ってるな。
心の中で呟きながらパンフレットを手に部屋を出た。
談話室にジョージが居るかも解らないのに。
階段を降りると談話室の隅に双子が居るのを見つけた。
いつも賑やかな輪の中心に居るのに最近はこういう事が多い。
悪戯の相談なのかそれとも何か他の相談事なのか。
話しかけづらいなぁと思いながらパンフレットを見ていると後ろから肩を叩かれた。
振り返れば肩を叩いたのはリーで、私のパンフレットを覗き込んでいる。
慌ててそれをリーの視界から見えないだろう体の後ろに隠す。
「何してるんだ?」
「ジョージに用があって。でも何か相談してるみたいだから」
「ああ、最近のあいつらはあんな感じだからな。あ、こっち気付いた」
リーが双子に向かって手招きをする。
リーを見れば当然隣に居る私も視界に入る訳で。
双子が同時に応えるように手を上げた。
目の前まで来るとじゃあなと言ってフレッドがリーを連れて階段を上っていく。
何も言っていないのに私がジョージに用があるのが解ったのは何故だろう。
考えながら二人の後ろ姿を見ていたら目の前に手が現れた。
「どうした?」
「あ、うん。ちょっと、聞きたい事があって」
「ん?」
「パートナー、決まった?」
「名前」
いきなり名前を呼ばれて首を傾げる。
ジョージも不思議そうな顔で首を傾げるから余計に混乱してしまう。
しかしすぐにある可能性を思いついてまさかと思いながら聞いてみる事にした。
勘違いだったら恥ずかしいなんてもんじゃない。
でも多分、間違っていないと思うんだ。
「私がパートナー、で良いの?」
「そのつもりだったけど。誰か見つかった?」
「ううん」
「じゃあ、決まりって事で」
笑顔を見せるジョージに私も笑顔になる。
しかし手に持っているパンフレットを思い出す。
まだこれを聞かなければいけないのを忘れていた。
思い出さないままで良かったのになぁと思いながらパンフレットを差し出す。
パンフレットを受け取ったジョージはパラパラと捲って首を傾げた。
「好み、ある?」
「好み?」
「うん。ドレスローブの好み」
「ああ、聞いて来いって言われたな」
ジョージはニヤリと笑って再びパンフレットを捲り始める。
私が聞きたがっている訳じゃないのはバレバレだし、真面目に答えるか解らない。
そもそも友人は持ってきたドレスローブ以外の物を着るつもりなんだろうか。
先程チラッと見たけれどドレスローブは結構良いお値段だ。
「好みねぇ」
パンフレットを見つめる顔は思っていたよりも真剣。
もしかしたら本当に好みの物があるのかもしれない。
かと言ってそれを買うかと言うとそれはまた別の話なのだけど。
「名前のドレスローブ、どんなやつ?」
「えっと、似てるのはこれかな」
「俺の好みもこれ」
「えー……本当に?」
「本当に。当日楽しみにしてるぜ」
私にパンフレットを返すと片手を上げて男子寮への階段を上っていく。
ジョージの好みがこれなら持ってきたドレスローブでも友人は文句は言わないだろう。
気を遣ってくれたのか本当にこれが好みなのか、どちらでも可能性がありそうだ。
(20170310)
クリスマスの過ごし方