「おはようシリウス」

「……ああ、お前か。おはよう」

「大広間まで一緒に行こうよ」

「悪い。もう食い終わった。早く行かないと食いそびれるぞ」


じゃあな、と階段を上っていくシリウスの背中を消えるまで眺め、大急ぎで談話室を出る。
そんなに寝坊した訳ではないのに、シリウスの方が早かったようだ。
もしかしたら女の子と一緒に食べようと約束していたのかもしれない。
ハッフルパフのジェシカかはたまたレイブンクローのシャーリーか。
いや、相手が誰かなんて大した問題ではない。
大広間に入り、直ぐに見つけた綺麗な赤毛を目指し走る。


「おはようリリー!」

「あら、おはよう名前」

「またシリウスと食べられなかったよ」

「ああ、ブラックならルイスと一緒だったわよ」

「あの子かー」


最近シリウスをやたらと誘っているグリフィンドールの下級生。
ホグズミードに一緒に行きたいと話していたのを聞いた。
しかし次のホグズミード行きの日はレイブンクローのシャーリーと行くらしい。
とっくに誘ってあっさり断られてしまったのだ。


「毎日頑張るわね」

「うん。だってシリウスの事好きだから」

「ポッターみたいだわ」

「そうかなぁ?」


マーマレードをたっぷり塗ったトーストを頬張りながらポッターを思い出してみる。
毎日好きな相手に声を掛けるという点は全く同じだった。
でも私はポッターと違って相手に嫌われてはいない、と思う。




シリウスは昼食はいつもポッターとルーピンとペティグリューと一緒。
夕食こそは、と思ったのに話し掛ける時間が無くて結局今日も一緒に食べられなかった。
そもそも大広間の何処にもシリウスは居なくて、時間が合わなかったらしい。
励ましてくれるリリーにお礼を言って一人図書館に足を向ける。
学生なのだからシリウスを追いかけるだけじゃなくてしっかり勉強もしなければ。
本を何冊か抜き取ってお気に入りの窓際の席に座った。


「勉強してんのか」


ノートに文字を書き始めてかなり経ったと思う。
突然聞こえてきた声に心臓が跳ねた。
誰かなんて確認しなくても声だけで解る。
顔を上げると本を持ったシリウスがノートを覗き込んでいた。


「うん。予習復習しないと、授業に付いていけないから」

「ふーん……じゃあ、教えてやろうか」

「え?」

「暇だし」


隣の椅子が引かれ、そこにシリウスが腰を下ろす。
シリウスの持っていた本が机に置かれて再びノートを覗き込んでくる。
ドキドキと騒がしい心臓の音が聞こえてしまわないだろうか。


「でも誰か、女の子との約束は?」

「ああ……なんか、用事が出来たらしい」

「じゃあ、ポッター達は?」

「さあな。部屋で遊んでるんじゃないか。嫌なら、俺も部屋に戻るけど」

「嫌じゃないよ。お願いします」


嬉しい気持ち半分、戸惑い半分。
シリウスの手が本をパラパラと捲る。
私の物とは違う大きな手に一層心臓が騒がしくなった。
触りたいな、なんて思って手を少し近付けてみる。
しかしシリウスの解説が始まって慌てて引っ込めた。
せっかく教えてくれるんだからしっかり聞かなくては。


私一人では時間がかかってしまう問題もシリウスの解説があるといつもより早く解けた。
聞き逃さないようにしっかり耳を傾けていたけれど、シリウスは教えるのが上手い。
毎日声を掛けていたけれど、これは初めて知った。
こんな事なら今度からお願いしてみようかな、なんて考える。
しかし今日は偶々シリウスが暇だったから教えて貰えたという事を忘れてはいけない。


「予習もやんのか?」

「うん。でも、それは一人でも大丈夫」

「授業中難しい顔してるくせに」

「見てたの?」

「見えるんだよ。授業暇だからな」


恥ずかしさで顔に熱が集まるのが解る。
見られていたなんて、全然気付かなかった。
今度から少し気を付けよう。
ノートや羽根ペンを片付けて本を持とうとすると先にシリウスが持ち上げた。


「え」

「片付けるから場所教えろ」

「あ、うん」


シリウスの隣に立って図書館の中を移動する。
本を全て戻し終えて、図書館を出ると自然と足が寮に向く。
しかし、数歩進んだところでふと隣を見る。
シリウスは寮に戻るのか、約束があるのか。
チラリと此方を見たグレーの瞳と視線が合う。
けれど直ぐに視線を逸らされてシリウスは進んでいく。


「名前、お前寮に戻んねえの?」

「戻る、けど」

「置いてくぞ」


慌てて少し先のシリウスの隣まで走る。
こんなに並んで歩けるなんて、思わなかった。
いつもみたいに食事には誘えなかったけれど、勉強も教えて貰えて今こうして並んで歩けている。
嬉しくて嬉しくて他愛ない話をしている今も頬が緩みっぱなしだ。
今日はラッキーかもしれない。




(20160208)
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