コンビニで買ってきた溶け始めのアイスをスプーンで掬いながら溜息を吐いた。
その間にスプーンの上にあったアイスはなくなっていて、いつも通りやる気の無い先生が美味いななんて呟く。
「ちょっと先生、これ私の!」
「知ってる」
「先生のはそこに置いてあるから。あ、勿論お釣りも」
机の上に置かれた苺味のアイスを見て先生は直ぐに蓋を開けた。
一口目を食べられてしまった私は改めてアイスを掬い、直ぐに食べる。
梨のすっきりした甘さが口に広がって気分も爽やかになれそうだ。
「あー美味い。やっぱ甘いもんは良いな」
「先生の一口ちょーだい」
「なんで?」
「私のアイス一口食べたでしょ」
はいはい、なんて言いながら先生がアイスを差し出す。
一口貰うと先生はもうやらないなんて言い出した。
偶に見せる本当に教師かと言いたくなる先生の一面。
それにいらないよとと可愛げもなく答える私はやっぱり子供だ。
「それで、溜息なんか吐いてどうした」
「んー……夏休みが終わっちゃうなって」
もう片手で足りてしまう日数しか残っていない。
始まる前はあんなにたくさんあったと思っても実際はあっという間だ。
夏休みが終われば冬休みまで長い長い二学期が始まる。
「もしかして宿題終わってないの?」
「終わってますー。先生の前でやってたでしょ」
「そうだな。俺に答え聞いたなお前は」
私は夏休みの間もほぼ毎日学校に来ていた。
先生の居る国語科準備室で空いてる机で宿題をやり暗くなったら帰る。
それが土日とお盆以外の私の夏休みの過ごし方だった。
「毎日来るぐらい学校好きなんだろ。良かったじゃねーか」
「学校が好きな訳じゃないよ」
「嫌いなやつは夏休みも毎日来ねーの」
先生はきっと毎日私が学校に来る理由を解っている。
解っていて私は学校が好きなんだと言うのだ。
先生は大人で、私に言わせないようにする。
今までそういう生徒に何人出会ってきたのだろう。
子供な私は言わせないようにする先生の態度が面白くない。
でも、先生に子供だと思われたくなくて言葉を飲み込む。
「宿題今出しても良い?」
「だーめ。俺今日は仕事する気ねーの」
「サボるんだ」
「そう、サボるの。校長には言うなよ」
空のアイス容器を捨て、いそいそとソファーに横たわる先生は眼鏡を外して瞼を閉じてしまった。
こうなったら先生は私の相手なんかしてくれない。
もう殆ど液体になってしまったアイスを食べながら外に目を向ける。
全くなんて不毛な恋をしてしまったんだろうか。
そう思っても先生を好きでいるのを辞められない。
そうなれたら良いのに、と思った事は何回もあるというのに。
「名字」
「なーに先生」
「明日はチョコレートアイスな」
「……あ、お金、ちょうだいよ」
「後でな」
暫くしたら起こして、という言葉を残して先生は眠ってしまった。
今明日と言ったという事は明日も来ても良いという事だろうか。
ずっともう来るなよと言われていたのに、このタイミングでこれは狡い。
「あー……あつい」
もう片手で足りる程しかない夏休み、残りはどうやって過ごそうか。
(20150830)
夏の終わりに