ぼんやりと空を見上げながら重くなるそのままに瞼を閉じる。
朝や夜は冷えるけれど昼間はとても温かい。
日によっては汗ばむ程で、季節が変わった事を体感する。
このまま少しだけ昼寝をしてしまっても良いだろうか。


「見当たらねーと思ったらこんなとこに居やがったか」


スパンという音と共に鈍い痛みを頭が訴える。
せっかく心地良くなってきたところだったのに。
しかしそんな呑気な事を言っていられる場合でも無い。
頭の直ぐ横に立ち此方を見下ろしている鬼の副長。
手に握られている刀を見て何で頭を攻撃されたかを知った。
煙草に火を点ける副長の視線を感じながら体を起こす。


「サボってんじゃねぇよ。総悟かてめーは」

「沖田さんと一緒にしないで下さいよ。私はちょっと屋根に不審な気配を感じたからで、」

「寝てただろーが」


ゴツ、と再び頭に衝撃を与えられ、頭を両手で抑える。
紫煙を吐き出す副長は無表情のまま。
少しくらい手加減をして欲しいと思う。
いや、山崎さんに対する仕打ちと比べたらまだ可愛い方かもしれない。
そう思い直してみるけれど物を使っている時点でどうだろう。


「そもそも、私一昨日任務から帰ったばかりです」

「そうだな。報告書早く出せ」

「粗方報告したじゃないですか。それに簡潔に文章にするのって難しいんですよ。山崎さんはミントンやってて助けてくれないし」

「……あそこに居るのは山崎か?」

「ええ、そうですね」

「手裏剣投げろ」


いや、仮にも山崎さんは上司な訳で、とぶつぶつ言ってみる。
しかし副長は山崎さんよりも上の立場の人間だ。
こういう場合、私はどうするのが正解なんだろう。
私の実力を知っている副長に届きませんよなんて言葉は通用しない。
ごめんなさい山崎さんと手裏剣に手を伸ばし掛けた時、副長が飛び降りた。
それはもう屋根の上から勢い良く綺麗に。
着地も完璧に決めた副長は真っ直ぐ山崎さんの元へ走って行った。
結局自分で行った方が早いと思ったのだろう。


「山崎さん、どうかご無事でー」


一応上司に声を掛けてみるけれど、聞いていられるかは疑問だ。




出来上がった報告書にミスが無いか確認しながら副長の部屋へ向かう。
途中で大の字になった山崎さんが居たような気がする。
生きてはいるようだったので先を急ぐ事にした。
というか、山崎さんは任務の最中だった気がするのだけれど。
何はともあれ早く報告書を出さなければ私が危ない。


「ふくちょー」

「おい何だ、そのやる気皆無な声は」

「気のせいです。失礼します」


障子を閉めて副長の前に座り報告書を差し出す。
紫煙を吐き出した副長は灰皿に煙草を押し付けて報告書を受け取った。
部屋中に煙が充満している気がするのはやはり副長のせいだろう。
閉めたばかりの障子を少しだけ開けて空気の入れ換えを試みる。


「概ね報告通りだな」


だからそう言ったじゃないですかとは言えず、ただ頷く。
新しい煙草に火を点けた副長はご苦労と言って報告書を机に乗せた。


「ところで副長」

「何だ?」

「任務に行く前に私が言った言葉、覚えてます?」


途端に目が泳ぎ出した副長に少し近付く。
形勢逆転などと思いながら煙草を取り上げ灰皿に押し付ける。
火を点けたばかりだという抗議は聞こえない振り。


「もしかして覚えてませんか?それなら、もう一度言いますよ」

「……いや、覚えてる」


両腕を掴んで一気に距離を詰めると、副長が目を逸らした。
女である私の力なら簡単に振り解けるだろう。
もう少し顔を近付けたら簡単にキスが出来る距離。
生憎両腕は塞がっているから抱き付く事は出来ない。
とても残念、と呟くと副長がチラリと此方を見た。


「本気か」

「ええ、本気です。冗談でこんな事しませんよ」


全く力の入っていなかった腕に力が入り、簡単に腕を外される。
もう一度腕を掴もうとすると逆に手を握られてしまった。
どういうつもりだと顔を見詰めていると土方さんが顔を上げ、距離が無くなる。
至近距離でぶつかる視線に仕掛けた側なのに不覚にもドキリとした。


「俺は優しくなんかねぇぞ」

「さあ、それはどうでしょう」

「あ?」


首を傾げる副長に今度は私からキスをする。
煙草の匂いが落ち着くようになったのはいつからだったか。
きっと私自身も気付かないうちに少しずつ、だろう。
空いている腕を背中に回して体を寄せる。


「好きですよ、副長」




(20150423)
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