「入ーれーて」


玄関を開けたらいかにも酔っぱらってますという臭いの銀時が立っていた。
どうせまた飲み過ぎたんだろうなんて考えながら中へと招き入れる。
ゆらゆら揺れながら中へ入った銀時はブーツを脱ごうと努力していた。
見かねて手を貸すとへらりと笑って部屋へと蛇行しながら歩いていく。
一体どれくらい飲んだのか解らないけれど困った人だと思いながら招き入れる私も相当だ。


「おーい名前ちゃーん、炬燵冷てーんだけど」


背中を丸め机に顎を乗せた銀時が不服そうな顔をする。
スイッチが入っていないので冷たいのは当たり前なのだ。
炬燵のスイッチを入れて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
それをグラスに注ぎ、温まってきた炬燵に満足そうにしている顔の前に置いた。
とろんとした目でそれを確認すると一気に飲み干す。
お代わりを並々と注ぐと今度は半分飲んで一旦机に置いた。
グラスを持っていた手が伸びてきて頬に添えられる。


「キスでもすっか」

「嫌」

「断るなよー」

「酔ってない時にして」


するりと手が離れ、炬燵布団の中に消えていった。
暫くして再び現れた手がリモコンのボタンを順番に押していく。
バラエティー、アニメ、テレビショッピングと続いて画面が暗くなった。
銀時の惹かれるような内容は無かったらしい。
グラスを空にすると自分でお代わりを注いでまた空にを繰り返す。
ぼんやりと何処を見ているか解らない銀時の横顔を眺める。
いつもやる気の無い目は今にも閉じてしまいそうだ。
不意にもぞもぞと動いたと思ったら着物が脱ぎ捨てられる。


「寒いんじゃないの?」

「いやー、今ならこのまま北国だって行ける」

「それは流石に風邪引くと思う」


脱ぎ捨てられた着物をハンガーにかけると影に覆われた。
振り向くと先程よりいつもに近いやる気の無い目をしている。
今にも寝てしまいそうだったのが嘘みたいだ。
背中に回された腕に引き寄せられるとアルコールに混じって僅かにいつもの銀時の匂いがする。
本当に一瞬だけ額に唇が触れて、そして離れていった。


「駄目だ。眠い」

「ムード台無しだね」


悪い悪いなんて言いながらよろよろと布団に向かう銀時。
何故か私の手を握ったままで、連れて行かれるままに畳に膝を付く。
布団に潜り込んだ銀時の瞼は閉じられている。
布団から出ているのは顔と、私の手を握っている片手だけ。


規則正しい寝息と少し冷たい指先、それからスイッチが入ったままの炬燵。
炬燵も電気も消しに行きたいけれどこの手を離す気にはなれない。
しかし、暫くすると完全に寝入ってしまったのか力が抜けた。
炬燵と電気を消しに行き、再び元の場所へと戻る。


「銀時、好き」


寝ているから本人には伝わらないだろう。
きっと朝には気持ち悪いとか頭痛いだとか言うのだ。
客用の布団を隣に敷いて電気を消し潜り込む。
目が慣れて来ると銀時の横顔の輪郭が見えて、思わず頬が緩む。


「俺も好きだ」

「え?」


突然腕を掴まれたと思ったらそのまま抱き締められた。
目の前には銀時の胸、頭には手。
寝ていた筈なのにいつの間にか同じ布団の中に居る。
起きていたのかと聞くと寝言だと返ってきた。
目を閉じて銀時の胸に額を寄せる。
冷える夜なのに今はこんなにもあたたかい。




(20150420)
花冷えの夜
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