「三年経ったら会おうよ。その時はお嫁さんになって」


妙にハッキリとした口調だと思い目を開いた。
そして目を開いたという行動に瞬きを繰り返す。
何度瞬きを繰り返しても自分の部屋の天井しか見えない。
上半身を起こしすとやはり自分の部屋だった。
カレンダーを見てなるほどと一人頷く。
あの言葉は五年前の今日言われたものだ。


朝食を作り食べ身支度を整えて家を出る。
ホグワーツを卒業してから五年間続けてきた生活だ。
ダイアゴン横丁の隅にある小さな本屋さんで働いている。
マグルの本を中心に扱っているからか余り人は来ないがとても居心地が良い。
マグル好きで有名なアーサー・ウィーズリーも常連だったりする。
あの台詞を言ったビル・ウィーズリーの父親だ。


ビル・ウィーズリーはグリフィンドール、私はハッフルパフ。
親しかったかと言われると微妙だと思う。
私とビルの接点と言えば監督生の集まりのみだ。
会えば話はするがデートに誘われた事は一度も無い。
それがどうしてあんな言葉を言われる事になったのか。
最初は真剣に考えていたけれどそのうちにからかっているのだという結論に至った。
その結論を裏付けるようにビルから手紙が来た事は一度も無い。


「やあ、少しお邪魔するよ」

「こんにちは、ウィーズリーさん。お探ししていた本入っていますよ」

「本当かい?」


本を差し出すとウィーズリーさんは嬉しそうに受け取って表紙を眺める。
キラキラとした瞳はまるで子供が新しいオモチャを見つけた様だ。
今日はそんなに忙しくないのだろうか。
表紙を存分に眺め終えると文字に目を走らせ始めた。
それを確認して作業に戻ったけれど直ぐに手を止めウィーズリーさんを盗み見る。
改めて彼はビル・ウィーズリーの父親だという事実に気付く。
ウィーズリーさんならビルが何故あんな事を言ったのか解決するだろうか。
しかし以前ウィーズリーさんとビルの話をした際に私の事を知っている素振りは見せなかった。
という事はビルは私の事をウィーズリーさんには話していないという事で、何も解らない可能性が高い。


「あの、ウィーズリーさん、ビルは元気ですか?」

「ああ、元気だよ。帰っては来ないがね」


にこやかにそう言ってウィーズリーさんは再び視線を落とす。
そんな事を聞いてどうするんだと思うが元気だと聞いて何故だかホッとした。




ふくろう便の出し忘れが無い事を確認して姿眩ましをする。
鞄から家の鍵を取り出しながら夕飯はどうしようかと悩む。
作るのは面倒だけれどお腹はとても空いている。
買ってくれば良かったと思いながら扉を開けて、そして閉じた。
ドアノブを握ったまま今見た光景を思い浮かべる。
見慣れた部屋に見慣れない物があったと思う。
いや、物というかシルエットというか人物というか。
深呼吸を繰り返してもう一度開けて見間違いでは無かった事を知る。


「お帰り、名前」


記憶より長い髪をポニーテールにしたビル・ウィーズリーが立っていた。
此処は私の部屋で鍵は今自分で開けた、筈。
魔法を使えば開けてしまえるけれどビルはそんな事をするような人じゃない。
しかしビルが立っているのは間違いなく私の部屋の暖炉の前。


「久しぶりだね」

「久しぶり……ってそうじゃなくて、何で此処に?」

「外で待ってたら管理人に会って、事情を話したら入れてくれた」

「因みに、私との関係は何て?」

「婚約者って言っておいた」


何処から突っ込んでいけば良いのだろうか。
まず私は婚約者になった覚えは無い。
次に管理人さんは何故簡単に信じてしまったのか。
此処に住んで五年間の間にビルが此処に来た事は無い。
そしてビルはどうして此処に来たのか。
どれを一番最初に聞こうか悩みながらとりあえず水でも飲もうと思った。
水差しからコップに注ぎそれを一気に飲み干す。


「とりあえず、私は貴方の婚約者になった覚えは無いんだけど」

「プロポーズはしたよ」


ケロッとそう言ったビルに顔の筋肉が引きつる。
言葉を返せないでいると椅子に座ったビルに向かい側に座るよう促された。
私の部屋だというのに椅子を進められるなんて可笑しい話である。
しかしこのまま立ち話をするのもどうかと思い腰を下ろす。


「一つ、と言うか幾つか聞きたいんだけど、ビルは私の事を好きなの?」

「うん」

「……そう。じゃあ、あの卒業式の日に言った事は本気って事?」

「冗談であんな事言わないよ」


ああそう本気なの、という言葉が浮かんだ。
次に本気という言葉を理解して頭が真っ白になる。
せっかくからかっているのだと結論付けたのに。
何より私の事を好きだなんて初耳だ。


「思ってたよりお金貯めるのに時間がかかって遅くなっちゃったけど」


手を握られて慌てる私に構わずビルはにっこりと笑う。
慌てる一方でビルの手って大きいんだなと思う自分も居る。
こんな風にじっくり見た事も触れた事も無い。
自分の物とは違う手を観察していたらぎゅっと力を込められる。
それをきっかけに顔を上げるとビルはあの日と同じ表情を浮かべていた。
真剣な、でも少しだけ照れくさいとでも言いたいようなそんな表情。


「お嫁さんになって」


あの日と同じ表情で同じ言葉を放たれた。
違うのはビルの気持ちを知った私。
お嫁さんという言葉を心の中で呟いた瞬間体温が上がった。
顔を見ていられず俯いて上手く動かない頭でなんとか言葉を絞り出す。
それを聞いたビルは驚いたように目を見開き瞬きを繰り返した後、よろしくねと微笑んだ。




(20141026)
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