ジーと向かい側で書類を書く土方さんを眺める。
自室は寒いらしく炬燵で寛いでいた私の部屋に来たのだ。
煙草臭くなるから嫌だと言っているのに。
案の定灰皿を持ち込んでプカプカ吸っている。
書類の上を滑る土方さんの手。
私は土方さんの手が好きだ。
土方さんがではなくて土方さんの手が。
女の私より大きな手が書類を書き煙草を吸う。
その手が理由は上手く言えないけれど好きなのだ。
みかんを剥きながら相変わらず手を眺めていると、いきなりその手が止まる。
何事かと土方さんの手から土方さんに目を移す。
土方さんの両目が私の顔をジッと見つめていた。
「な、なんですか?」
「お前が先に見てたんだろうが」
プハーと煙草の煙を吐きながら土方さんが言う。
私に直接かからないようにしてくれている事だけは感謝。
確かに私は土方さんの手を見ていた訳で土方さんを見ていた訳じゃないのだけど。
でも手は体の一部だから結局土方さんを見てた事になるのか。
「土方さんの手を見てたんですー」
「はぁ?」
心底不思議だと言いたげな返事と表情。
暫く考えてから笑った土方さんはいつもと違って見えた。
大体この人はいつも無表情に近い。
いきなり手が伸びてきて指先が触れた。
何故かドキドキし出して有り得ない土方さんだよ!なんて心の中で叫ぶ。
だから私は土方さんが小さな声で言った言葉が聞こえなかった。
「手だけじゃなくて俺を見ろよな」
土方さんの手は悪戯するように私の手の中のみかんをどかす。
私の手のひらを動いてとても擽ったい。
手を離そうとすると握られてしまって離せなかった。
「土方さーん」
「ん?」
「みかん食べにくいんですけど」
「そうか」
そうかってなんて思わないでもないけど、手のひらが凄く擽ったいけど、まあいいかとなんて思ったり思わなかったり。
(20120114) for 紫電 様
指先ロマンス