「それで?何で別れたんだよ?」

「私以外にも女の子が居たから」

「気付かなかったのか?」

「気付かなかったの。隠すのが上手だったのよ」


少し力を込めて投げたクアッフルは思ったよりも右に逸れてしまった。
でもチャーリーは全く慌てる事無く余裕の表情でキャッチする。
本当に飛ぶのが上手くていつ見ても羨ましく思う。
投げ返されたクアッフルをキャッチすると少し休憩しようとチャーリーが言った。


誰も居ない観客席に並んで座り、スコーンをかじって紅茶を飲む。
やっぱり厨房に寄って貰ってきたのは正解だった。
自主練習でチームの時よりハードじゃないとは言え動けば小腹だって空く。


「相変わらず男を見る目が無いな」

「私もそう思う」

「大体、ちゃんと好きなのか?」


チャーリーの言葉に今まで付き合った人の顔を思い浮かべてみる。
ぼんやりとでは無くハッキリ思い出せる位には好きだったのだと思う。
そう言うとふーんと興味の無さそうな声が返ってきた。


「暫くは恋人は要らないわ」

「前にも聞いたな、その言葉」

「…言ったかも」

「しかも同じ場所でな」


チャーリーの言葉を聞き流して残りのスコーンを放り込む。
だって、あの時は本当にそう思って、告白された時は本当に嬉しかったのだ。
前から好きだったなんて真っ直ぐ言われたら心が揺らぐのも仕方無いと思う。
それが駄目なんだとチャーリーに言われた事もあるのだけど。


「そういうチャーリーは?この間告白されてたじゃない」

「断った」

「どうして?可愛かったのに」

「でも可愛いだけじゃ駄目だろ?」

「…美人じゃなきゃって事?」

「バーカ」


そうじゃねえよ、と言いながらチャーリーは立ち上がった。
スニッチを放しそれを追い掛けて飛び上がる。
我がチームのキャプテンでありシーカーのチャーリー。
風のように飛ぶ姿をじっくり見られるのはこんな時位だ。
スニッチを追い掛けて上昇したり下降したり。
最高のシーカーだと思うのに、なかなか優勝出来ないのだ。




突然降り出した雨から逃げるように城への道を走る。
せっかく練習を再開しようと思ったのに、天気は意地悪だ。
玄関ホールまで来てしまえばフードを脱げる。


「いつも雨が降るな」

「ん?いつも?」

「別れた話を聞く時だよ」

「えー…そうだっけ?」

「そう」


そういえば前は湖を散歩していたら雨が降ってきた。
その前は魔法生物飼育学の授業中でその前は確か天文学の授業中。
その前もあった筈だけどなかなか思い出せない。


「別れた話をしなくて済む相手を見つけなきゃ!」

「頑張れ」

「他人事だと思ってー」


チラリと私を見たチャーリーはからからと笑う。
どうせまた私が同じ事を繰り返すと思っているのだ。


「じゃあチャーリーが相手になってよ」

「良いよ」

「ほら、やっぱり断、る…今何て言った?」

「良いよって言った」


お前の別れた話は飽きたからな、と言って私に手を差し出す。
手だとは解っているのにまじまじと見つめてしまう。
この差し出された手は私はどうすれば良いのかさっぱり解らない。


「何だよ。お前から言ってきたんだろ?」

「いやいや、解ってるの?別れ話をしない相手だよ?」

「俺の耳は飾りじゃないつもりだけど」


ほら、と催促されてそこに自分の手を重ねると少し強めに握られた。
私の手がチャーリーの手と繋がっているなんて不思議な気分。
ふと目線を上げるとチャーリーの耳が赤くなっているのを見つけてキュンとした。




(20131019)
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