チラッと盗み見れば凄く真剣な顔が目に入る。
その真剣な顔にとくんと心臓が鳴った。
かっこいいなぁなんて思いながら再び目の前の問題集に目を戻す。


暫く眺めていたけれど、どうしても解らない。
教えて貰った筈なのに。
音を立てないよう教科書をめくる。
邪魔をしないように、静かに。


「どうした?」


バレてしまった。静かに、を心掛けていたのに。
解らない問題を告げると丁寧に教えてくれる。
とても解りやすい説明で私がそこそこな成績を取れているのはこの人のお陰なのだと思う。


「今日はもう帰るか」

「あ、うん」


窓の外はすっかりオレンジ色から藍色に変わっていた。
遠くの方に微かに見えるオレンジ色。
日が落ちるのが早いなぁとぼんやり考える。
鞄に全てをしまってマフラーを巻いていると視線を感じた。


「何?」

「いや…なんでもないよ」


ふわっと笑うものだから、顔が赤くなってしまう。
普段の生活では滅多に見られない笑顔。
一度写真に収めようとしたけれど、拒否されてしまった。
滅多に見られないから、残しておきたいのに。


「行くぞ」

「うん。あ、トシの手暖かい」

「名前の手が冷たいだけだろ」


ギュッと痛くない程度の力で握られる。
歩幅の狭い私に合わせてゆっくり歩く。
優しい彼の手はいつも暖かい。
普段Z組の皆と居る時とはまるで別人のよう。
思わず笑いが込み上げて、隣から不思議そうな声がした。


「何でもないよ」


そのまま手を引っ張って距離を縮める。
繋がっていない方の手が伸びてきて頭をくしゃくしゃと撫でた。




(20120112)
私と貴方
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