梟が飛んできて部屋の中に入ると私の目の前に封筒を落とした。
ちゃんと届けた事に満足したのか、止まり木に飛んでいって水を飲んでいる。
私の飼っている梟用なのだけど、仕方無いなぁと梟フードを幾つか乗せた。
嬉しそうにホーと鳴いて梟フードを食べるこの子はきっと学校の梟。
撫でてお礼を言うとまた嬉しそうに鳴いた。


封筒を手に取って差出人の名前を探す。
裏返して隅々まで見ても宛名しか書いてない。
けれど私にはそれだけで充分だった。
性格を表すような綺麗なこの字は一人しか思い付かない。
それに、何度も見ているからすっかり覚えてしまった。
封筒を開けて取り出した便箋にはやっぱり同じ綺麗な文字が並ぶ。


「夕食の時間、天文台」


声に出して読んだ文章が便箋に書かれていた全て。
突然の呼び出しに嬉しい気持ちと不安な気持ちが半分半分。
腕時計を見ると夕食の時間まで30分程だった。




天文台は吹く風が強くて少し寒い。
持ってきたマントを被ってなるべく風を遮る。
壁に背中を預けて座り込むと更に風を遮断出来た。
腕時計の秒針が動くのを眺めながら待つ。
時間にルーズでは無い人だから、もうそろそろ来るだろう。
これから会える嬉しさと、何の話か解らない不安。
二つの感情で騒がしい心臓を宥めようと足を抱き込む。


「待たせた、かな?」

「大丈夫、待ってないわ」

「寒かっただろう」

「平気。マント着てるし、此処は余り風が当たらないから」


そっか、と言う声はいつものように優しくて心にスッと入り込んでいく。
隣に座った事で距離が近くなり心臓は段々早くなっていき、少し煩い。
もしこの音が聞こえてしまったらどうしようと今までにも何度思った事か。
けれど現実は何も言われないから心臓の音なんて自分にしか聞こえていないのだ。


「こんな時間に急に呼び出してごめん」

「気にしないで。それより、ちゃんと梟と会えて良かったわ。じゃなかったらレギュラスを待たせてしまったもの」

「ああ、うん。そうだね」


柔らかく笑うから、それに反応するようにとくんと音がする。
このまま、ずっと隣に居られたらと何度願ったか、その回数も忘れてしまった。


「僕は、あの方に仕える事が決まったよ」

「え…、でも、まだ私達16歳、よ?」

「それでも、あの方は僕を必要として下さった」

「レギュラス」


嬉しそうな彼の耳に私の声は届いたのか届かなかったのか。
彼があの方に憧れているのは勿論知っていた。
いつかこんな日が来る事もちゃんと知っていたのに、こんなのは余りにも早い。


「だから、もうこうやって会うのは最後だ」


伸びてきた指が私の髪の毛を耳に掛けた。
そのまま頬をなぞり、最後に頭を撫でて離れていく。
離れないでと私の体は訴えるのに声には出ない。
ただただ離れていく手を見つめているだけ。
いつも優しく名前を呼ぶ声が、名前を呼んでくれない。


「友達でいられて、楽しかったよ」

「レギュ、ラス」

「僕の事は、忘れるんだ。話は、これだけ。それじゃあ…さよなら」


立ち上がって、歩いて行ってしまう。
パタン、と扉が閉まる音が重たく響く。
私と彼は恋人なんて甘い関係じゃ無かった。
純血でスリザリンの彼と、純血でグリフィンドールな私。
小さい頃からの付き合いで、寮が離れてしまってからも友達でいてくれた。
この関係は卒業するまでは続くと思っていたのに。
勝手に卒業まではと決め付けていたなんて、馬鹿みたい。


「レギュラス」


16年の人生、その殆どの時間こう呼べば彼は答えてくれた。
優しく笑って、名前を呼んでどうしたの?と聞いてくれる。
それが大好きで用事も無いのに名前を呼んだりもした。
もうそれも失ってしまったのだと思うと涙が零れる。
会えるのが楽しみだと思っていたのがつい先程の筈なのに、随分昔の出来事みたいだ。




廊下を歩いていると向かい側から彼が一人で歩いて来る。
友人の輪から抜け出して彼に近付く。
心臓は緊張でドキドキと大暴れしている。


「こんにちは、レギュラス」


勇気を出して声を掛けても彼は此方をチラリとも見ない。
擦れ違う瞬間によく知った彼の香りがして鼻がツンとした。
コツコツと鳴る靴音がゆっくり確実に離れていく。
振り向くと、もう既に大分距離が空いてしまっている。
離れていく背中がぼやけ掛けたけれど、私は負けてはいられないのだ。


「私待ってるから!いつでも、いつまでも、また友達だって言ってくれるの待ってる!」


周りの人が一斉に私を見る中、全く振り向かない。
滲んできた涙を腕で拭って友人を追い掛ける。
最後だなんて、忘れろだなんて、絶対に聞いてやらないんだから。
だって、私には彼しか居ないのだ。




(20130824) for ハートはわたあめ 様
あなたを忘れてなんかあげない
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