新八くんから連絡を受けて私は仕事が終わって直ぐに病院に駆け込んだ。
受付で病室を聞いてエレベーターなんて待っていられないから階段を駆け上がる。
廊下の表示を見ながら急ぎ足で進むと新八くんと神楽ちゃんが居た。


「新八くん!神楽ちゃん!」

「あ、名前さん!」


私を見て立ち上がった二人は顔を見合わせてから私に笑顔を向ける。
それを見てとりあえず安心出来た私の足が震え出す。
普段エレベーターに頼りきりな私が一気に階段を駆け上がったせいだろう。
すっかり荒くなった呼吸を整えようと大きく大きく息を吐き出した。


「名前、大丈夫アルか?」

「大丈夫。神楽ちゃんまた顔に怪我したの?女の子なんだから顔は守らないと」

「平気ネ。私丈夫だからこれ位直ぐ治るヨ!」


そう言ってガッツポーズを決める神楽ちゃんの頼もしさに自然と顔が緩む。
新八くんは顔に傷は無いけれどよく見れば指に包帯を巻いている。


「神楽ちゃん、僕は名前さんの言う通りだと思うよ」

「煩いネ眼鏡」

「……相変わらず僕に冷たいね」

「名前、今日は万事屋来るアルか?」

「うん、行けたら行こうかな」


じゃあ約束アルとにっこり笑った神楽ちゃんの頭を撫でて二人を見送った。
曲がり角を曲がって見えなくなるまで何か言い合いをしていたのが二人らしい。


閉められた扉の前に立ってゆっくり息を吸って吐いて静かに扉を開けた。
ベッドの脇に置かれた椅子に座って眠っている銀時を眺める。
頭にも首にも包帯が巻かれているし、頬には大きなガーゼ。
痛々しい姿は何度見たって慣れるものじゃない。
そっと傷も付いていない頬に触れて輪郭に沿ってなぞる。
温かい頬に触れているという事実が生きているという事を実感させてくれた。


いつも何をしているかは詳しくは知らない。
万事屋だから依頼されて危ない事だってするのだろう。
でも、偶に銀時はこんな風に沢山の怪我をする。
こっそり溜息を吐いて手を離そうとしたらガシリと手を掴まれた。


「お姉さん、もう少し撫でてくれても良いんじゃねえの?」

「起きてたの?」


瞼を持ち上げた銀時は私をチラリと見て体を起こす。
慌てて掴まれていない方の腕で背中を支える。
いてーな、と呟いてお腹を押さえながらも私の腕は離してくれない。


「で?何で名前ちゃんはそんな顔してんの?」

「それ聞くの?」

「銀さんちゃんと聞きたいなぁ」


ニヤニヤと笑う銀時を睨む。
どんな顔かなんて解らないけれど、原因は間違い無く銀時。
人がどれだけ心配していたと思っているのだろう。


「心配する身にもなってよ。いつもいつも傷だらけで……仕事終わって走って来たんだから」

「うん」

「銀時に何かあったらって思うと私心臓が止まっちゃいそうなんだから」

「うん」

「いつも、触って冷たかったらどうしようって思って…」


この続きはもう言えそうに無かった。
涙が止まらなくてもう銀時の顔もぼやけて見えない。
膝にポタポタと落ちる涙はどんどん服の色を変えていく。
銀時が困った顔をしていようと知らない。
私が泣いた事にせいぜい困れば良いのだ。


「俺愛されてるねぇ。困っちゃうわ」

「ふ、ざけないでっ!」


こんな時に、と怒りが込み上げてくる。
私は真剣に心配しているというのに。
銀時は私の気持ちなんて解っていないのだ。


「ふざけてなんかねえよ」


急に変わった声色に顔を上げるとぼやけた視界の中で銀時が真剣な顔をしている。
掴まれていた手を引っ張られたと思ったら唇に温かい物が触れた。
離れてはまた触れる、を何度も繰り返す。
温かくて銀時が生きているのだと改めて実感する。


「名前ちゃん、泣き止んでくんねえ?」

「嫌」

「銀さん元気なら今すぐ押し倒してっ、ちょ、おまっ、痛い痛い!」


軽そうな、と言っても包帯の上からは解らないから勘で傷口を押す。
痛い無理死んじゃうと騒ぐ銀時に少しだけ怒りも収まって手を離した。
痛みに耐える銀時に向かって手を伸ばし、銀髪を撫でる。
天然パーマの銀髪はふわふわとしていて触り心地が良い。


「名前、俺怪我人なんだけど」

「知ってる。ちょっとスッキリした」

「そーかよ」

「仕方無いからお見舞い来てあげるわ」

「ああ、じゃあいちご牛乳とパフェと団子頼むわ」


相変わらずの台詞に思わず吹き出してしまった。
笑っているとまた腕を引っ張られて今度は抱き締められる。
いつも甘い匂いの銀時から今日は薬品と消毒液の匂い。


「他に欲しい物はある?」

「あとは……名前」


耳元で低い声で囁かれてそれに連動するかのように心臓が鳴った。




(20130729)
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