なんだか凄く良い夢を見た気がする。
頭を撫でて貰って頬なんか突っつかれたりして、優しい微笑みなんか見ちゃったり。
とにかく凄く幸せな夢を見て私の目覚めはとても快適だった。


「やあ、やっと起きたのかい?」


幻聴まで聞こえる程夢を引き摺っているらしい。
もぞもぞと寝返りをうつと目の前が真っ暗になった。
何故だろう、と瞬きをしているとパッと明るくなる。


「聞いてる?」

「…ええと、どうして此処に?」

「馬鹿なの?」


柔らかく微笑んではいるけれどこれは怒っている笑顔だ。
だって此処は女子寮の私の部屋でリドルは入れない筈。
ガバッと起き上がって部屋を見渡すとなんだか景色が違う。
まさか、と思ってリドルを見るとそれはそれは素敵な笑顔。
この笑顔に皆騙されているんだ。


「朝食の後わざわざ上がり込んできて僕のベッドを占領していつの間にか眠り込んだ挙げ句此処が女子寮だなんて思っていないよね?」

「え…と、思ってない、です」

「ふぅん?」


ギシ、とベッドが鳴ってリドルが動いた事を知らせる。
近くなった距離に居心地が悪くブランケットを口元まで引き寄せた。
リドルは片腕をついて此方を見つめていて相変わらず微笑んでいる。
夢の中ではこんな風に笑って頭を撫でてくれたのだ。
けれど現実では嫌な予感しかしない。


「名前じゃなかったら追い出してるけど」

「あの、リドルさん」

「僕の言う事聞くよね?」

「え?ええと…はい」


段々近くなる端正な顔にドギマギしているとリドルの頭はポスンと枕に着地した。
え?え?と疑問が浮かぶ私は置いてきぼりで私の好きな瞳は瞼の裏に隠れる。


「リドル?」

「僕寝るから、湯たんぽは湯たんぽらしくしてなよ。三時に起こして。おやすみ」


リドルに腕を回されて私の心臓は大騒ぎ。
これじゃあ私の心臓の音でリドルは起きてしまうんじゃないか。
そう思うけれど瞼が開く事は無く、寝息が聞こえてくる。
こんな事はもう二度と無いかもしれない。
出来るだけ起こさないようにリドルに身を寄せた。




ガツンと頭に走った衝撃に私は目を覚ます。
周りを見回して私はとてもとても後悔した。


「僕三時に起こしてって言ったんだけど、君聞いてた?今何時か解る?」

「…えと、あの」

「僕が三時に起きたから良いけど、どうして君が寝ているんだろうね」


真っ黒な笑顔で言うリドルに怯えながら私は頭を抑える。
ズキズキとする頭は恐らく殴られたのだろう。
分厚い本がリドルの手の中にある。
謝罪の言葉を口にするとリドルは本に目を戻す。


「別に怒ってないけど…つまらないから起きてなよ」


目が本に向いているからきっと相手はしてくれない。
けれどこうしてリドルを眺めていられるから満足。




(20121030)
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