ムスッとした顔で呪文集を読んでいる彼女。
その横にはなんとか彼女の機嫌を良くしようとあれこれ手を尽くす親友。
談話室は楽しそうな空気なのに、あの一角だけ別世界のようだ。


言葉をかけたり頭を撫でようとしたり色々試しているらしいが、良い兆候は見られない。
それをぼんやり眺めながら別の親友が淹れてくれた紅茶を飲む。
角砂糖を五つなんて、俺は入れない。


「必死だね」


かなり甘そうな紅茶を飲みながらリーマスが呟いた。
同意を示してから紅茶を飲み込む。
リーマスの手元を見れば羊皮紙や教科書が幾つも置かれている。
そういえば変身学のレポートまだだったなぁとぼんやり頭の片隅に浮かぶ。
すると、ダンッと机に鞄が置かれ、座っていたソファが揺れた。


「信じられないわ」


こちらも機嫌が芳しくないらしく、リーマスをチラッと見れば苦笑いを浮かべている。
窓際の彼女程では無いけれど、ムッとした顔。


「私はただ図書館で本を読んでいただけなのに、誰かが仕掛けた悪戯のせいでその本の文字が消えちゃったのよ」

「まさか、罰則か?」


ニヤッと笑って尋ねる。
しかし、とんでもない!という勢いで睨まれてしまった。
機嫌が悪く、興奮状態なのは十分解る。


「私のせいじゃないのよ!罰則なんて受けてないわ。マダム・ピンスにはかなり怒られたけど…シリウス、悪戯したの貴方じゃないわよね?」

「俺じゃないよ」


更に彼女が何か言おうと口を開いた時、一際大きな声がした。
なんだなんだと皆が注目すれば発信源は窓際の二人。
余りのしつこさについに怒りが爆発したらしく、床に伸びているジェームズ。


「全く、照れ屋だなぁ。エバンズは」


ニコニコ笑いながらリーマスの隣に座る。
そんなジェームズから視線を戻せば先程より幾らか落ち着いたらしい。
彼女の頭をポンポンと撫でる。
相変わらず表情はムッとしているけれど。


「お前なぁ、いつまでそんな顔してるんだよ」

「だって、あの本が無いと薬草学のレポートが書けないのよ」

「薬草学?あぁ、あれなら僕終わってるから参考にする?」

「本当?リーマス!」


嬉しそうに俺を押しのけてリーマスの横に移動する。
鞄から出されたレポートを受け取ってニッコリと笑った。
ジェームズがこちらを見てニヤニヤと笑っている。
ムッとしたので向けられている背中にもたれかかった。


「ちょっと、重いじゃないシリウス」

「気のせいだ」


背中の温もりが心地良くて目を閉じる。
何やら文句を言っているけれど気にしない。
きっとそのうち静かになる筈だから。


「しょうがないわね」


ボソッと呟いた声が聞こえた様な気がする。




(20120111)
片恋ロマンス
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -