うっかり落としてしまった教科書をかき集めていたら上から目の前にとても高級そうな革靴が見えた。
見上げるとプラチナ・ブロンドが見えて、彼はしゃがみ込む。


「また落としたのか?」

「あ、うん」

「全く…ほら、これで全部だろう」


差し出された教科書を確認すると全て揃っていた。
立ち上がってお礼を言おうと彼を見ると片手を此方へ差し出した状態で私を見ている。
これは、もしかしなくても手を貸してやるよという事なのだと思う。
自力で立ち上がった私はそれをさらりと無視してしまった事になる。


「あ、あの…ごめんなさい」

「いや、構わない」

「拾ってくれて有難う。私スネイプ先生の所に行かなきゃいけないから。それじゃあ」


そう言って彼に背を向けて歩き出す。
彼も目的の場所へ行くだろうと思っていたのに後ろから足音がする。
もしかしたら彼ではないかもしれないし、気にせず地下への階段を目指す。
それに彼だとしても寮に戻るのかもしれないし。


スネイプ先生に課題を出して研究室から出るとまたプラチナ・ブロンドが見えた。
壁に寄りかかって腕を組んでいた彼が私を見つけるなり姿勢を正す。
特に話しかける用事もないのでそのまま通り過ぎようとしたのに腕を掴まれて叶わない。


「名前、ちょっと付き合わないか?」

「レポートやらなきゃいけないの」

「じゃあ僕が手伝おう」


そのまま腕を引っ張られて談話室まで連れて行かれた。
彼は本当に手伝うつもりらしく隣に座って教科書を捲っている。
別に手伝ってくれるのならばそれは助かるのだ。
けれど私は彼が苦手で、こんなところを見られたらパンジーが喚くのも苦手。
ましてや談話室だなんて見られる可能性が高い場所なだけに憂鬱になる。
黙々と羽根ペンを動かしながら見つからない事を願う。
彼は隣であれやこれやと教科書を読み上げている。
彼はやれば出来るのだから普段の授業も真面目に受ければ良いのに。


「あとはこれを書けば良いだろう」

「うん」

「聞いているのか?」


ずっと適当に返事をしていた事がそろそろ怪しくなってきたかと思い首を動かす。
すると思いの外近くに彼の整った顔があって思わず距離を取る。
けれど、腕を掴まれてしまってもうこれ以上距離を取る事が出来ない。


「なんだ、もう書いていたのか」

「え?」

「それならそうと言えば良い。僕に気を遣う必要は無いんだ」


よく解らないけれど、説明するのも億劫なので曖昧に頷く。
満足そうな顔で微笑むと彼は立ち上がり寮へと消えていった。
居ない間に引き上げる為に教科書やレポートなどを片付けていたのに彼は足早に戻ってくる。
普段は気怠げにのんびりと歩くのに、一体どういう事だ。


「母上が送ってきて下さったんだ。食べると良い」


見るからに高そうな箱に遠慮しようとしたけれど無理矢理押し付けられる。
彼はやけに機嫌が良く、先程からずっと笑顔だ。
母上はああだこうだと話すのを聞き流す。
手持ち無沙汰は嫌なので押し付けられた包みを開く。
中からはこれまた高級そうなチョコレートが出て来た。
一粒口に入れると甘すぎない適度な甘みが舌の上で広がる。


「美味いだろう?」

「うん」

「僕と結婚すればいつでも買ってやる」


また言い出した、と思うとうっかり眉間に皺が出来てしまう。
ご機嫌で私を見ていた彼は勿論そんな事は気付いてしまっていて、腕を掴まれた。
その拍子にチョコレートが音を立てて落ちていく。


「いつまで逃げるつもりだ」

「…逃げてる訳じゃ」

「僕は君が好きなんだ」


此処は談話室で、パンジーが戻ってくるかもしれなくて、でも腕は両方自由を奪われている。
段々近付いてくる端正な顔を首を捻る事で避けた。
けれど彼は眉を寄せただけでそのまま近付いて私の肩に顎を乗せる。
掴まれていた腕はもう自由だったけれど、拒む事を許さないかのように抱き締められて動けない。


「マルフォイ、離して」

「嫌だ。そんな呼び方はするなと言っただろう」

「…」

「君も僕が好きだろう?」


耳元で囁くように言われて擽ったさに思わず目を閉じる。
優しく頭を撫で始める私より大きな彼の手を心地良く思ってしまう。
これだから私は彼が苦手なのだ。




(20121011)
苦手意識
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