眠れなくてルームメイトの寝息を聞きながら珍しく晴れている月夜を眺める。
月と星がキラキラと輝いて、部屋に明かりが差し込む。
夜にしては明るい、そんな夜。
自然に目が開いて一目見たら胸が締め付けられた。
それが原因で眠れなくなってしまい、今に至る。


息を吐いて音を立てないように部屋を抜け出す。
誰も居らず、暖炉の火も消えている談話室はこれでもかという位静か。
暖炉の前のソファーに座って暖炉に火を点けるとその音だけが響き始めた。
何をするでもなく燃えている暖炉の火をただただ眺める。


カタン、と音がしてそちらに目を向けると人影が見えた。
同じように眠れなくなってしまった人だろうか。
影になっていて顔が見えないので判断が出来ない。
此方に近付いて来ると、暖炉の火によって段々顔が見えるようになる。
黒髪にグレーの瞳、整った顔はシリウスだった。


「よう、名前」

「こんばんは、シリウス」

「夜更かしか?」

「目が覚めて眠れなくなっちゃったのよ」


そうかと頷いてシリウスは隣に座り、私と同じように暖炉を眺める。
こっそりシリウスの横顔を盗み見るとやはり整っている事が解った。
私のルームメイトもシリウスが好きだとかかっこいいだとか聞いた事がある。
だから、普段シリウスと普通に会話をする私が羨ましいらしい。
私はそんな感情を持っていないので別に喋りたいなら喋ったら良いのに、と思う。
あくまでもシリウスは友達でその域を越えないのだ。


「シリウスも眠れなくなったの?」

「んー…まあ、そんなとこ」

「ふぅん」


ジッとグレーの瞳が此方を見つめていて、私も見つめ返す。
するといきなりシリウスが立ち上がり、私に手を差し出してきた。
その手を見つめていたら今度は私の腕を掴み、引き寄せる。
自然と私も立ち上がる事になりシリウスと目線が近付く。


「眠れねえんなら付き合え」

「何処に?」


質問に答えずシリウスは私の手を引いて男子寮に向かって歩き出す。
まさか男子寮に連れて行かれるとは思わずに少し抵抗したけれど無駄だった。


想像した通りシリウス達の部屋で、扉を開ける前にシリウスは人差し指を唇に当てて静かにと合図する。
中に入ると其処は流石というか悪戯道具が床の至る所に落ちていた。
シリウスは私を窓際に立たせてベッドの辺りをゴソゴソし始める。
戻ってきた時には手に箒を持って反対の手にはパーカーを持っていた。
首を傾げていると頭からパーカーを被せられ、シリウスが後ろに乗れと合図する。


「ちょっと、シリウス」

「馬鹿!ジェームズ達が起きるだろ」


慌てて気配を疑うシリウスの声の方が大きいと思う。
けれど声には出さず私は言われたままに箒の後ろに乗り、シリウスのお腹に腕を回した。
それを確認したシリウスは窓から空へと飛び始める。


「寒くねえか?」

「平気」

「そうか」


高くまで来ると風が少し強く、冷たいけれどパーカーが暖かい。
シリウスの物だから私にはとても大きいのだけれど。
ある程度の高さまで来るとシリウスはその場で止まった。
窓から見ていた時より空が近くて、けれどやはり遠い。


「名前、悩み事があんのか?」

「えー?魔法史が壊滅的?」

「それはお前が寝るのが悪い」

「シリウスだって寝てるくせに」


脇腹を擽ると馬鹿と怒られてしまった。
そして滅多に聞かない真剣な声でそうじゃなくて、と言う。
首だけで此方を向いてシリウスはまた同じ質問を口にする。


「悩み事は、特に無いかな」

「ふぅん」


何か考えるように視線を巡らせてシリウスは正面を向いた。
それを確認して私はシリウスの大きな背中に顔を埋める。
暖かくて、外気に晒されて冷えた頬にとても心地良い。
そんな私の行動を不思議に思ったのかシリウスが再び振り向く気配がした。


「どうしたんだよ」

「人肌恋しいっていうのかしら」

「んー…感傷的ってやつ?」

「そうね、そんな感じ」


気のない返事をして正面を向いたシリウスは何も話さない。
暫くそのままでボーっと二人宙に浮いたまま。
偶に梟か、それとも別の鳥か、羽音が聞こえる。


不意に眠気が襲ってきて欠伸が出た。
戻るぞ、とシリウスが呟いて埋めていた顔を上げるとどんどん空が遠くなっていく。
シリウスは振り向かずに自分の部屋へと真っ直ぐに飛ぶ。
窓から無事に部屋に戻ると箒を置いたシリウスに手を引かれ階段まで戻る。


「シリウス、有難う」

「また付き合えよ」


おやすみ、と言って私の頭を撫でたシリウスに胸が違和感を覚えた。
なんだろう、と手で顔を覆ったところでシリウスのパーカーに気付く。
明日までにこの違和感が無くなれば良いのに、と思いながらパーカーを脱いだ。




(20121003)
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