ぼんやりと覚醒しかかっている意識の中を私はうろうろしていた。
人の温もりが無いという事はきっと彼は昨夜は帰っていない。
お店が繁盛しているのは良い事だけれど彼自身休めないのでは考え物だ。
まだ瞼が重くてもう一度夢の世界へ沈もうと決める。
うろうろしていた私の意識もきっとクッションで丸くなったに違いない。
そんな時物音が聞こえて丸くなった私の意識は首を擡げる。
せっかくまた良い夢を見ようと思っていたのに。
「名前」
低い私を呼ぶ声は聞こえていて、けれど瞼は開かなくて返事も出来ない。
いきなり体に重みを感じて思わず唸ると微かに笑う気配がした。
「重いわ、ジョージ」
返事は無く腕が絡みついてきて手探りでその腕を退かす。
再び絡みついてきて私は同じように退かしたけれど諦めるつもりは無いようだ。
体の半分には私より大きい体が乗っかっていて身動きが出来ない。
仕方無く重い瞼を開けて乗っかっている体を転がす。
「酷いぜ、名前」
ニヤニヤと笑う彼を見て私は頬がヒクリと動く。
眠い中で相手をするのが面倒だったので気が付かなかった。
まだニヤニヤしている彼の頬を思い切り摘んでやる。
痛い酷いと頬を両手で抑える彼を無視して寝室を出ると珈琲を飲む彼の姿。
「おはよう、名前」
「おはようジョージ」
「相棒は?」
ジョージの問いかけに私は肩を竦めてみせる。
すると後ろからフレッドが相変わらず酷いと言いながら現れた。
ジョージはニヤニヤとしながら二人分の珈琲を淹れる。
受け取ってジョージの隣に腰を降ろすと隣にフレッドが座った。
「フレッド、私貴方の彼女じゃないわ」
「知ってるさ。だから何もしなかっただろ?」
「まあね」
「ジョージくんが怒るからな」
「当たり前だ。幾ら相棒でも怒るぜ」
ぐっと引き寄せられて危うく珈琲を零すところだった。
危ないなぁとジョージを見ると彼は真っ直ぐフレッドを見ている。
首を反対側に向けるとニヤニヤと笑いながら珈琲を飲むフレッド。
「そろそろ帰れよ」
「別に俺はこのままイチャついてくれて構わないぜ?」
「バーカ。名前が恥ずかしがるだろ」
フレッドは珈琲を飲み干して私の頬にキスをしてから暖炉へと消えていく。
フレッドにキスされた頬をジョージの手がゴシゴシと擦る。
全くあいつは、なんて言いながら優しく笑うのは家族故なのだろう。
珈琲を飲もうと口元まで運んだマグカップが奪い取られて机に置かれる。
マグカップを取らないようにか、私の両手は大きな手に掴まれた。
ジョージの顔を見ると私の好きな顔で優しく笑うから文句は飲み込んでしまう。
「やっと名前と二人だ」
「フレッドは何しに来たの?」
「ちょっと店の話をね」
抱きつかれて私にはジョージの丸まった背中が見える。
身長差があるのだから無理に私の肩に頭を乗せなければ良いのに。
そんな事を思いながら丸まった背中を撫でると笑う気配がする。
今度はちゃんとジョージのものだ。
こんなに違うのに寝惚けた私は間違えるなんて。
「ジョージ、朝ご飯作るわよ」
「うん」
「ジョージ?」
「名前が良い」
何を言い出すのかと思ってジョージを見ると静かな寝息が聞こえてきた。
背中にガッチリと回されている腕は離れそうもない。
仕方が無いので朝ご飯は諦めてジョージの赤毛を撫でる。
夜は無かったこの温もりに包まれてまた夢の世界へ行くのも悪くない。
(20120704)
隣でおやすみ