きっちりと正座をして向き合う私。
何と向き合っているかって、冷蔵庫だ。
この冷蔵庫の中にはいちご牛乳が入っている。
買い足していないからコップ一杯位しかない。
今それが無性に飲みたくて仕方無いのだ。
三人とも出掛けている今がチャンスだと思う。
何より飲みたいし。


「どうにでもなれ!」


冷蔵庫に手を伸ばしていちご牛乳を取り出す。
喉を潤していくいちご牛乳はとても美味しい。
私はソファーに座り、甘さを堪能する。
最後の一口を飲み込むのと玄関が開くのは同時だった。


「あ…えと、お帰りなさい」

「名前チャン、その手に持っている物は?」


ただいまよりも何よりも先に彼の目は私の手元に向けられる。
小さな声でいちご牛乳だと答えても彼は何の反応も示さない。
するといきなり彼が消えてチャイナ服の子が現れた。


「邪魔アル。名前ただいまヨー!」

「お帰りなさい神楽ちゃん」


抱き付いて来た神楽ちゃんを受け止めながら銀さんを見る。
どうやら蹴られたようで背中に足跡が付いていた。
けれど直ぐに立ち上がって私から神楽ちゃんを剥がす。
神楽ちゃんにお金を渡して出て行かせる銀さん。
ニコッと笑ったので私も同じ様に笑ってみる。


「さあ、名前ちゃんその手に持ってる物の説明をして貰おうか?」

「えっと」

「大丈夫、二人しか居ないし」


そう言って銀さんは私に覆い被さるように抱き付く。
逃げられないようにがっちりと腕で固定されてしまっている。
この腕は本人の普段のやる気の無さに反して筋肉がしっかり付いているのだ。
だから私が此処でどうジタバタしようが抜け出せない。


「…いちご牛乳、飲んじゃった」


小さな声で素直に、と言っても彼の見たままの事実を話す。
すると彼は顔が見えるように少しだけ体を起こした。
相変わらず私の体は彼によって固定されている。


「銀さん楽しみにしてたんだけどなぁ」

「ごめんなさい…飲みたくなっちゃって」

「ふーん」


チラと私の瞳を覗いてそして逸らす。
あ、と言おうとした声は彼の唇に吸い込まれた。
私の口内に易々と入り込んだ舌は好きなように動く。
なんとなく縋りたくなって彼の着流しを掴む。
最後に軽く私の唇を吸ってそれから頬に口付けを一つ。


「名前、今度は俺の残しとけよー。無かったら名前ちゃんイタダキマス」


冷蔵庫の方へ歩きながら銀さんが言う。
私は少しぼんやりとする頭で深く考えずに頷いた。




(20120502)
ストロベリーキス!
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