あのね、と言ったきり黙ってしまった名前。
別に時間が無い訳ではないので構わないのだけれど。
紅茶と共に、と用意したクッキーをかじる。
オレンジピールが入っていてとても爽やかな味だ。
わざわざ僕が一人の時を狙ってきたと言う事は他の人には聞かせたくない話の筈。
だから消灯時間を過ぎた今こうして談話室に二人で居るのだ。
なんとなく話したい内容の検討は付いているけれど確信がある訳じゃない。
特に急かす事をしない僕と言葉を探している彼女。
意を決したように顔を上げた名前の口から出た親友の名前にやっぱりなぁと思った。
「シリウスがどうしたの?」
「あのね、女の子と歩いていたのよ」
苦笑いをするしかなく、名前は紅茶を流し込む。
確かにシリウスは女の子関係はとても派手だ。
名前に想いを寄せる前までの話だけれど。
ある日好きな人が出来たとお遊びをパッタリ辞めたのは驚いた記憶がある。
「シリウスがモテるのは知ってるわ、有名だし」
「そうだね」
「少しもやもやって言うか」
「ヤキモチ?」
ガチャンッ!と大きな音を立ててとんでもないという顔でカップを置く。
自覚はしていたけれど認めたくないのだろう。
同室のシリウスを思い浮かべて思考を巡らせる。
寝ているのか、起きてジェームズと悪戯を考えているのか。
どうしたものかなぁ、とクッキーをかじる。
「ごめんなさいリーマス、こんな話」
しゅんとしてしまった名前に慌てて大丈夫だと伝えた。
それでも事が事だけに難しく微笑むだけ。
全くシリウスは、とこっそり溜息を吐く。
「シリウスはね、君を好きになってから全く遊ばなくなったんだよ」
「知ってるわ」
「だから浮気はしてないと思うよ。もし浮気していたら僕が殴っておくよ」
きょとんとしてからくすくすと笑い出す。
シリウスが名前を好きな気持ちも解る気がした。
勿論友情以上の感情は持っていないけれど。
自分のカップが空になった時後ろで物音がした。
振り返ると驚いた表情のシリウス。
タイミングが悪くて全くシリウスは、と溜息を吐く。
「シリウス、こっちに来て名前と話をしなよ」
立ったまま動かないシリウスを引っ張って無理矢理座らせる。
慌てている名前は少し気の毒だけれど手を振って自室への道を歩く。
置き去りにしてしまったけれど大丈夫だろうか。
二人の事だからきっと大丈夫だと思う。
次の日、目覚めたシリウスがずっとこちらを見ている事に気付いた。
敢えて気付かないフリをしてゆっくり着替える。
それでも見られているので仕方無く向き合う。
「リーマス、サンキュー」
ボソッと呟いたシリウスに肩を竦める事で返事をした。
(20120229)
黒犬の躾