元々不良だった凌牙が遊馬によって、かなり丸くなった頃です。 遊馬から紹介したい先輩がいると言われて、凌牙は素直についていきました。 待ち合わせの公園に行くと、そこには子連れの親達しかおらず、遊馬が紹介したい人はどうやらまだ来ていないようです。 遊馬が辺りをきょろきょろと見まわしていると、遠くの方からキィーンというホイール音が近付いてきました。それを聞いた遊馬の顔がぱっと明るくなり、凌牙の手を引いて、公園の出入り口へ向かって駆けだしました。 公園の入り口には真っ赤に塗られた大きなバイクがとまっており、その運転手はたった今着いたようで、ヘルメットを被ったままでした。 「遊星ー!」 遊馬が大声で呼びかけると、それに気づいた運転手はヘルメットを外しました。 遊星と呼ばれた運転手はバイクの電源を落とすと、ヘルメットを小脇に抱えてバイクを降り、遊馬達に改めて向き合いました。 「遊馬、久しぶりだな。元気にしていたか」 「元気に決まってるだろ?」 「そうだな。遊馬、こっちの彼は?」 全く表情を変えずに遊星が凌牙の方へ視線を向けました。 「あー言ってただろ遊星。こいつが…」 「神代凌牙だ」 凌牙がそう名乗ると、遊馬は自分が言おうと思ったのにと大声をあげました。凌牙はそんな遊馬を無視しました。 「そうか、君が遊馬が言っていた『シャーク』か。俺は不動遊星。よろしくな凌牙」 遊星はそう言って、ヘルメットを持っていない方の手を差し出します。慣れないコミュニケーションに一瞬とまどいましたが、凌牙はおずおずと手を出して遊星と握手を交わします。他人の口からはあまり飛びださない自分の名前に少し驚いてもいました。 遊馬の先輩と言えども、あまり表情を変えない遊星に対して、凌牙の警戒心がそう簡単に解かれるわけではありません。 遊星が凌牙に話しかけてくる時は口を開きますが、自分から遊星に話しかけるということはしませんでした。 初めて会った日から数日経ったある日のこと。何度か遊馬に引っ張られて遊星と会っていくうちに、そういえば遊星がデュエルをしているところを見たことがないな、とふと思いました。 何度も見かけた腰のケースは、まぎれもなくデッキケースであるし、何より思い出す遊星の姿は遊馬のデュエルにアドバイスをしている様子が大半です。デュエルを知らないわけじゃないだろうと思った凌牙は、何気なしに教えてもらっていた遊星の電話番号に電話をかけました。 深夜にも関わらず、電話越しの遊星の声ははっきりしていました。 「凌牙」 いまだに聞きなれない音を聞き、凌牙の体は少しびくりと跳ねました。背の高い花壇に預けていた体を起こして後ろを振り返ると、そこには遊星の姿がありました。その後ろにはいつもの赤いバイクがあります。 「どうした、こんな時間に」 「……お前とデュエルがしたくって」 そうぽつりと言うと、遊星の表情が少しだけ変わったのが見えました。それはほんの少しで、どういう顔だったのかというのは分かりませんでした。 遊星は何も言わずに赤いバイクのもとへ寄ると、デュエルディスクを左腕にセットしました。自分が知っているものと違うものにぽかんとしていると、遊星が声をかけました。 「デュエルはできない」 凌牙はかっと頭に血がのぼりました。荒々しく遊星の胸倉を掴んでデュエルをしろと叫んだのですが、遊星は冷静にこう言いました。 「俺と凌牙のデュエルディスクの構造が違う。俺はDゲイザーを使わない」 それを聞いた途端に、凌牙はついさっきの声を荒げた自分の姿を思い出して、急に恥ずかしくなって俯いてしまいました。それをフォローするように、遊星は卓上デュエルならできる、と言い、男二人でベンチに座り、向かい合って卓上デュエルを始めたのでした。 卓上デュエルでは迫力がないので少し物足りなさを感じていましたが、そんな気持ちは遊星とのデュエルですぐに吹っ飛びました。 自分の負けで終わってしまったデュエルフィールドを見て、凌牙は小さくため息をこぼして遊星を見ました。 「強いんだな、お前」 「凌牙、お前もなかなか手ごわいぞ」 遊星はそう言うと、凌牙の髪をぐしゃぐしゃと撫ぜました。思わずその腕をふり払うと、一瞬遊星が笑っている顔が見えました。 知りあって数カ月。初めて見る笑顔でした。そんな顔もできるのかとか、同性であるのに不覚にもかっこいいと思ってしまったりだとか、一瞬で色々なことが頭を流れていき、凌牙は遊星をじっと見つめていました。 それは遊星のデュエルに熱く燃えた心の延長なのか、芽生え始めた恋の予感なのか、それを知るにはまだ早いようです。 13/05/16 main top |