何度目かの舌打ち。その音は鳴らした当の本人も気づいておらず、少し離れた場所で楽しそうに話す二人にも届いていない。背を預けるはずの背凭れに胸を預けると、椅子がぎしりと音を鳴らした。

「……で、ここでこのカウンターを使って……」
「うん、うん……。あ、それもいいけれど、そのカードとこのカードでコンボを決められれば……」
「……おお!これは良いコンボだな!」

 自分を置いて仲良くしている二人の様子が気に入らないのか、ベクターは再び舌を鳴らした。
 熱い一面がすっかり意気投合したのか、数分前に初めて会ったはずの大介とアリトは、仲良くリビングのソファーに座ってカードを広げている。大介はアリトの新しいコンボの話を熱心に聞き、プロデュエリストらしくアドバイスをしている。しかし、たまに子どものように楽しそうにデュエルの話をし、アリトと同じように目を輝かせて語り合った。

「……ちっ。何なんだよ」

 ベクターは胸の内にもやもやと渦巻くものがあることを感じていた。妙にイライラして、親指の爪を噛む。
 大介とアリトは、デュエリストとしての熱い気持ちを表面に出して語り合っているだけである。ベクターはその会話に入りたいとも思わないし、一人でいることが苦痛だとも感じない。デュエルを娯楽だと思っていないベクターにとって、二人の会話はどうでもいいのだ。

「くぅーっ!嬉しいぜ!こんな話出来るやつなんて周りにいねぇからよ!」
「はは、ありがとう。僕もすごく楽しいよ」
「えーっと、たしか……大介、だっけか?お前面白いやつだな!」

 そう言って無邪気にほほ笑んだアリトの顔が、ぐいっと押しのけられた。突然のことにアリトも大介も驚いたが、二人の間を割って入ったオレンジの頭を見て、すぐにそれがベクターであると分かった。

「大介」

 突然の介入に驚いていると、ベクターが大介の名前を呼んだ。それに大介が返事をする前に、その口は急速に塞がれた。

「んっ……」
「……っ!?」

 アリトが見ていようが、大介が目を見開いて硬直していようが、ベクターは構わず貪るようにキスをした。長い口付けの後、わざと音を鳴らして唇を離し、ベクターは見せつけるように自分の唇をぺろりと舐めた。

「おい、アリト」

 ベクターはにやりと笑って、顔を真っ赤にしているアリトへ視線を向けた。その顔を見てさらに笑みを深めると、大介の首に腕を回し、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。

「こいつを大介って呼んでいいのは俺だけだ。分かったか単細胞」

 それだけ言うと首に回していた手をぱっと離し、ベクターは軽い足取りでリビングを出ていった。胸の内に渦巻くものはすでに消えていた。



13/05/07
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