眠る前の挨拶を交わし、凌牙の意識が落ちかけた時であった。

「シャーク、そっちに行ってもいいか?」

 少し遠慮がちな遊馬の声に、凌牙は眠気でぼんやりとしながらも了承した。遊馬は静かに自分のベッドから出ると、床に敷かれた客用の敷き布団に潜り込んだ。二人が入ると窮屈ではあるが、顔を向かい合わせるくらいは出来る。

「どうした」
「いや……なんか、寒いなぁって……思ってよ」

 遊馬は目を合わせずに答えた。
 遊馬と凌牙の付き合いは、どちらかと言えば短い方なのだろう。だが、短い割に関係は深いためか。もしくは遊馬が分かりやすいためか、凌牙は遊馬が後ろめたいことを心の内に秘めていると感じた。
 遊馬の視線は未だ宙を漂っている。そこにアストラルがいるわけではない。遊馬はただ迷っているのだ。

「……っ!……シャーク?」

 何も言わずに凌牙は遊馬を抱きしめ、胸に顔を埋めた。遊馬の鼓動を感じ、目を閉じる。心地よさにつられて眠りに落ちそうになる。

「遊馬。お前さ、もっと周りを頼れよ」
「……え?」
「俺の勘で話すが、一人で抱え込むんじゃねぇ」
「……うん」
「もっと俺を信用しろ」

 凌牙が少し力を入れて抱き締めると、遊馬は腕と顔で抱き込むように凌牙の頭を包んだ。すん、と鼻をすする音がやけに大きく聞こえた。

「明日、どこか出掛けようぜ」
「俺……水族館がいい」
「ああ……あそこは静かで良いな」
「うん……落ち、着く……し……」

 ゆっくりとした息づかいが聞こえてきた。凌牙の頭を抱える手の力が少し緩む。
 安心しきって眠ってしまった遊馬に凌牙も肩の力を抜く。遊馬の鼓動を聞きながら、今度は眠りに深く沈んでいった。



13/03/26
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