強い風が二人の間を通り抜け、また小さな花弁を散らせた。
 儚くも散った花弁はふらふらと危なく漂いながら地面へ落ち、また風に遊ばれる。

「寒くないか」

 春になったとはいえ少し肌寒い。遊星は車椅子に座るジャックの顔を覗き込んで問うた。だが、どこを見ているのか分からない虚ろな紫の瞳は遊星を写すことはなく、薄く開いた唇から声が発せられることもなかった。
 まるで人形のようであるが、ジャックは生きている。だが、心が死んでしまっているのだ。
 ネオ童実野シティを出て、別の土地でのジャックの活躍を知っていた。だが、つい最近体調不良を原因にデュエルの舞台に顔を出さなくなってしまった。表向きは。
何があったのか、どうしてそうなってしまったのか。その時ジャックの傍にいた人は誰もその原因が分からず、遊星が久しぶりに再会した親友はすでに今の状態であった。
 誰もが意思の疎通が出来ないジャックを煙たがったが、遊星だけは違った。ジャックを受け入れ、今では仕事をしながらジャックの身の周りの世話をしている。
本当に人形のようなジャックは生きる事に関心がないかのように全く動かない。いや、関心がないのではない。そもそも心が抜け落ちてしまっているのだ。

「桜は好きか?聞いておけば良かったな。秋の紅葉も俺は好きだ」

 冷えきってしまった手にそっと手を重ねて優しく握りしめる。遊星の手が握り返されることはない。
 風が二人の間を通り抜けた。また散ってしまった花弁はジャックの髪に引っかかり、それに気づいた遊星は軽く笑った。

「お前には似合ってないな」

 ジャックの髪から花弁を取り除いても、その不快感だけは残った。

13/03/13
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