名探偵コナンメインテーマ〜ルパン三世のテーマ
多目的ホールから一歩外へ出ると、パーカッションの音が途端に小さくなる。
場所というほど分かりやすい目印もないが、お気に入りのそこへ陣取ると、上履きでリズムをとって楽器に息を吹き入れる。
聞き慣れたイントロに、部活をサボっていた男子生徒、たまたま通りがかった先生、はたまた数十メートル離れた野球部の部員も足や手を止め、れもんの演奏に聞き入る。
テナーサックスの、少し落ち着いた、けれど主張は忘れない彼女の音色。こっそり、彼女のソロに中で来夢がドラムを合わせているのは、彼女の耳には届いていないようだ。
聞き慣れたメインテーマをかっこよく、けれどさらりと奏でた後、再びはじまる今度は違う、だけどやっぱり聞き慣れたイントロ。今度はかっこよさを抑えて、静かに、だけどやっぱり主張は忘れずに、そして妖艶さを加えて。
大体この時間にはじまる、彼女――倉稲れもんによるソロコンサートはもはや不定期とはいえ、歌瀬川高等学校関係者にとってはおなじみになっていた。周りを緑豊かな自然に囲まれた、ここ歌瀬川高校ならではの野外コンサートである。
演奏が終わって一拍空いて、ぱちぱちとまばらに拍手が沸き起こる。本日のプログラムは「名探偵コナンメインテーマ」、そして「ルパン三世のテーマ」の二曲だった。
とはいえ、れもんは誰かに聞かせようとして外で演奏しているわけではないのだが、聞いてくれた人がいるからには小さくぺこっと頭を下げる。
「やっぱりここにいたわけね」
「あ、藍音ちゃん」
さて次は、とれもんが思考を巡らせたタイミングで声を掛けたのは、れもんの親友の藍音。
「合奏、先生の都合で十五分早まるみたいだからそろそろ戻っておいで。準備はじまるよ」
「んー、分かった」
「ほら早く」
「分かったってばぁ〜」
人の話をちゃんと聞いているのかいないのか。おそらく半分以上は聞き流しているであろうれもんの腕を引っ張って中へ連れ戻す。れもんとは仲はいいとはいえ、藍音はトロンボーン。パートが違うにも関わらず、れもんを合奏までに連れ戻すのは、なぜか藍音の役目になっていた。
「しっかし、なんで今日はコナンとルパン?」
「んー……ほら、先週テレビで映画やってたから?」
「なんで疑問形?」
「……さあ?」
[
back]