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 2017/03/23:路地裏の惨劇(承吉良)# (20:38)





息が乱れるほど走っていたのか、到着した承太郎は肩で息をしていた。思わず両ひざにそれぞれの手をついて前かがみになってしまう。だがその目はじっと目の前の光景を見つめていた。
「……吉良さん、アンタ……!」
彼の、前には吉良吉影がいた。草臥れた様な路地裏は、そのただの不良のたまり場の様な面から一転して、錆びれたコンクリートが赤く染まっていた。
承太郎は自分の背中から汗が滲み出ているのを感じた。今まで、こんな事なかったはずだ。今までも確かに窮地に陥った事は何度もあるが、まさか現場を発見しただけでこんな風になるとは思わなかった承太郎の呼びかけに、吉良は見つめていたらしいバラバラ死体からゆっくりとそちらへと向き直った。
「……ああ、空条さん、か…」
そう、まるでつまらなさそうな声を発した。承太郎は目を見開く。帽子の下から、たら、と汗が垂れた。
「吉良さん、何をしている」
恐怖からなのか、失望からなのかはわからないが、その声は少し揺れていた。
「見て、わからないのか?」
吉良は微かに頬に着いた血をそのままにニコリと笑った。今まで見たことのない、いわゆる、営業スマイルというものだろうか。だがそれが余計に恐怖であるのだとしたらその感情を助長させた。
「人を、殺したのさ」吉良はその笑顔のまま、左手で持っていたらしい死体の手首に頬ずりした。
「趣味でね」
うっとりと、笑みが機械じみたものから、人間味のある暖かな微笑みに変わる。この場には不釣り合いだ。承太郎は、その姿を見た瞬間自分でも驚くほどの速さで吉良に近づき、その襟を掴んだ。口を開いた承太郎だったがその口からは何も出なかった。それに吉良の表情は微笑みから、冷たい無表情へと変わる。
「…なんだ君、」
ガチャ、と吉良は右手に握っていた包丁を落とした。そしてそのまま血まみれの手で承太郎の頬を撫でる。
「嫉妬、してるのか」
吉良の青い瞳の奥の承太郎の瞳は、緑色の光を放っていた。





タイトル『路地裏の惨劇』






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 2017/03/23:抜け殻(承吉良) # (20:37)

酷く疲れたような顔の長身の男は、後ろでに扉を閉めると手探りで鍵を掛けた。そしてそのままの手で、壁を軽く叩いてスイッチを入れる。数度カチカチと点滅したかと思うと部屋に灯りが点く。小さな、部屋の全貌が明らかになった。デスクと、本棚と、何かしらの棚。デスクの上には書類が散らばり、インク壷にはペンが突っ込まれたままになっている。戸棚に並べられた魚類の標本と、いくつもの箱。本棚には様々な言語の本が適当に詰められている。部屋の一番奥のデスクの手前には一部暗幕がかかっていた。長身の男、空条はふらふらと歩き、そのまま暗幕の方へと向かっていく。暗幕を暖簾のように捲ると、部屋の続きには、フローリングの上に畳が敷いてあった。畳の上にはちゃぶ台と、人一人入るサイズの桐の箱があった。空条は畳の手前で靴を脱いで足を上げる。
空条は一直線に桐の箱へと向かっていた
箱の上部には蓋があり、それを外すと更に白い布が見えた。空条は丁寧に、しかし子供がプレゼントの包装を外すかのような高揚とした勢いで布を剥がした。
「ただいま」
嬉しそうに口角を上げた空条の視線の先には、死体がいた。血の気のない青ざめたような顔色の死体は、丁寧に整髪剤で金色の髪を前髪の一部を残して後ろにながし、あるブランドのスーツを着こんでいる。死んだばかりのようにも見える死体は、まるで眠っているように見えた。
「吉良、相変わらず眠っているんだな」
慈しむように空条の手がそっと吉良と呼んだ死体の頬を撫でる。まるで骨の上に皮を張ったような痩せた顔だ。腹の上で重ねたような形にさせている両手の上に重ねた手をそっと掴むと撫でさする。
「お前は、手を撫でるのが好きだったよな。」
吉良の手をそのまま運び、自分の頬に当てた空条はそっと吉良の手を動かした。
「あの時はわからねぇと思ったが、今はわかる気がする」
そっと一人囁くと、名残惜しそうに吉良の手の甲に唇を当てる。
「爪は切るか?」
そっと吉良の額に顔を近づけると口付けた。
「…化粧が剥げるから、今日はもうやめだな」
名残惜しそうにそう告げると空条はそっと吉良を覆っていた布を掴んだ。
「それじゃあ、また次の時にな」
空条はそう付け足して、吉良の顔を覆った。そして布の下の保冷材の調子を確認し、ちゃぶ台に手を伸ばして、ボーリング場の景品の爪切りを吉良の前に出す。吉良の手を確認すると爪を切るというほどでもない。代わりに自分の爪を見るとわずかながら伸びているが、だがまだ切るには早いと感じた。
「吉良、」
空条の呼びかけに吉良は答えない。うっとりとほほ笑んだ空条はまた蓋を閉めた。

タイトル「抜け殻」
吉良さんの蘇生か複製させた死体を愛でる病み太郎



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 2017/03/23:鳥籠(承吉良) 微# (20:37)

昼過ぎだからか、太陽は頭上にあるらしく、部屋の中は酷く暗かった。
「…あ、空条さん」
そんな部屋の中で、暗いだろうに本を読んでいた男が訪問者に気づき顔を上げた。柔らかそうな癖のある金の髪の男は微かに口角を上げて声をかける。それに空条は「よお」とだけ答えた。
「久しぶりだな吉良。息災か?」
「まぁ、結構ね。」
空条はよいしょとベッド脇の椅子に腰かける。吉良は読んでいた本を閉じて、ベッドヘッドに取り付けられたライトを点けようとしたが空条が手で制止した。
暗がりの中のせいか、酷く吉良の肌は白く見えた。それと髪の色、そして病衣の着用も相まって亡霊じみてみえた。
「昨日は医者からも爪の伸びが少なくて、精神的に安定しているんじゃないかと言われたよ。」
もしかしたら外に出れるかもね、と付け加える吉良は少し微笑んだ。「そうか」とだけ返答した承太郎は帽子の鍔に指をかける。
暫しの沈黙の後、吉良が口を開く。
「なあ」
呼ばれ、承太郎は顔を僅かに上げた。
「どうした」
「わたしは、やはり異常者なのだろうか」
影の中で微かに青い瞳が光る。承太郎はその目をじっと見つめている。次第に、返答しない承太郎に焦り始めたのか、苛立たしくなってきたのか吉良の眉根が寄り、微かに開いた唇に親指が吸い寄せられていく。噛みしめる直前に承太郎はその手を顔から遠ざけさせた。
「…こうしているうちは、異常者なんじゃねえのか?」
承太郎の答えに吉良は目を見開く。数度、瞬きをしたかと思うと顔を軽く伏せて自虐的に笑った。
「確かに、そうかもしれない」
静かに顔を覆う吉良に、空条は見ていられなくなってポケットに手を突っ込んだ。あいにく、その中にはたばこの空き箱しかない。ポケットから出した手を少し彷徨わせたかと思うと、承太郎はそっと吉良の頭に手をやる。
少しだけ、部屋の中の湿度が上がったような気がする。
承太郎の緑色の瞳は、ただ部屋の窓に取り付けられた鉄格子を見ていた。





タイトル「鳥籠」



18歳で殺人鬼として捕まり、それ以降SPW財団化の精神病院にいる吉良吉影とそんな彼と偶々出会ってしまった空条さんの話(前に仰っていたネタを勝手ながら使わせていただきました。すいませんありがとうございました)



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 2017/03/23:移り香(承吉良) (20:36)



「?吉良さんって香水つけてましたっけ」
コピーした書類を渡しに来たOLがふとそんなことを言った。それに吉良は思わずぽかんと口を開いてしまった。それにOLはしまった、というように手のひらを口の前に挙げて「あ、気づいてませんでした?」とぱちくりと瞬きをする。「全く覚えがないな…」と吉良は言いながら、確認のように自分のスーツの手首や襟の匂いを嗅いでみる。そして少し静止した。
「…確かに、香りがするね」
「付けてないってことは、なんなんですかね〜?でも、いい香りですね!」
そう言うとOLはそそくさと立ち去って行った。その後ろ姿を、なんなんだと小首を傾げながら思った吉良だったが、まぁ今は仕事中だからとすぐにデスクに向き直ると書類に目と通し始めた。
一二枚読み終えてから、少しまた匂いに対して気になり始める。この香りは嗅いだことがある。どこかほっとするような、それでいてそわそわするような…と思いをはせていると、はっとして目を見開いた。そして書類で顔を抑えた。
「………はぁ、」
小さく、少ししてからため息をつく。この香りは、
「…スーツのまま抱き合うんじゃなかった」
空条さんのだ。
そのままずるずるとデスクに肘を着けて脱力する。
気付いてからは香りは無視できないものになった。昨夜、このスーツのまま空条と抱き合った。その時の彼が自分の肩に顎を乗せてきたのを思い出す。そしてそのまましばらく抱きしめ合って、それから…
気付けば顔が真っ赤になっていた。これはいけない、と吉良はまた書類に目を無理やり通し始めた。

タイトル『移り香』


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 2017/03/23:黒猫のタンゴ(承吉良) (20:35)

「なんだい、これ」
昼寝から目覚めた吉良の首には真っ赤なリボンが着けられていた。承太郎は鬱陶しそうにリボンと首の隙間に指を入れてぐいぐいと間を広げる吉良の手をそっと止めさせた。
「少し前にな、ちょっと物をもらったときにそれが着いていたんだ」
「だからってぼくに着けるのか?」
はぁ、と小さくため息をつくと吉良はリボンから手を離して起き上がった。ちょうどうなじの辺りにリボンの結び目が来るように着けられたそれは、チョーカーというより動物に着けるようなものに見えた。
「似合ってる」
そんな承太郎の一言に吉良は軽く頬を掻いた。
「別に、こんなものつけなくてもぼくは君のものなのに」
「はは、悪いドラネコに声かけられたくなくてな」
そんな返答に少し吉良は小首を傾げてから、ああ、と軽く頷いた。
「…ぼく、黒猫じゃあないけど」
そう告げるとリボンを解いた。そして代わりに承太郎の首に掛ける。「色としては君の方が適任かな。」
吉良の唇が承太郎の耳元に行く。吐息交じりの声で「ね、ぼくの黒猫さん」と囁いてみると、承太郎は目を見開いた。
「さて、できた」
吉良の両肩を掴もうとした承太郎を、くすくす笑いながら吉良はあっさりと避けた。
「似合ってるよ」
そう言ってちょんちょんと自分のうなじを軽くたたく吉良に、承太郎ははっとして自分の首に手を当てた。

タイトル「黒猫のタンゴ」
わりと古い目の曲より


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 2017/03/23:あの星を追って(承吉良) (20:35)

浜辺には二人以外誰もいなかった。観光地というわけでもない、礫が目立つ浜の傍の駐車場にいる吉良と空条は、吉良の車に背を預けて星空を見ていた。
杜王町は再開発のおかげで都市化が進んだが、町の中心から出れば思いのほかその気配は見えなくなる。その為か二人が見上げる夜空には満点の星が広がっていた。月がちょうど今日はないためか、星灯りだけだが酷く暗いというわけでもない。時折知っている星座を指さして、あれはそうだの違うだのと軽く言葉を交わす以外、二人は特にそれ以上の会話はしなかった。
ここに来る途中に自販機で買った缶コーヒーを啜りまた星を見上げる。
「お」
適当な静寂が続いていたが、ふと空条が声をあげた。それに吉良はどうしたのかと彼を見る。
「どうしたんだ」
「流れ星だ」
見逃したな、と吉良はごちて一口コーヒーを飲む。流れ星なんて、まぁ珍しいものではあるがあの一瞬の燃え尽きる星が過ぎ去った後に、わざわざいつ来るかもわからない次を期待するなんてことはしない。
「まただ」
そんなことを思っていた吉良だったが、空条の言葉にふと空を見上げる。そして目を見開いた。
「…すごいな」
二人の視界には大量の流れ星があった。今日は流星群だったのだろうかと二人して驚いたようにただ星を眺める。次々と落ちて消えていく星たちを眺めながらふと吉良は承太郎を見た。
「願い事、何かしたのか?」
悪戯にそう言ってみると「…していなかった。三回言わないとだめなんだったか」と返答が帰ってきた。暗いが、顔は細部までまだわかる。
「何を願う?」
「……そうだな、どうせならこのまま…」
一度承太郎は続けようとした言葉を止めた。それに吉良は黙って待っている。微かにわかる、今は夜の海のような瞳を見て、空条は帽子の鍔をそっと伏せた。
「どうせならこのまま、二人で星でも…あの、落ちた星でも追ってみたい、ってところか」
それだけ言うと承太郎は缶を地面に置いてポケットを漁った。煙草の箱とライターを取り出すと、一本火咥えて火をつける。
「…もう、星がどこに落ちたかすらわからないのにか?」
少し眉間に皺を寄せた吉良の返答に
「その方が面白そうだろ?」虹の端を追いかけるのと同じだ
と付け加えた。
それ以上吉良は何も言わない。空条も煙草をふかすだけだ。ただただ、強い潮の匂いに交じって僅かな煙草の匂いがどこかへと流れていく。

タイトル「あの星を追いかけて」
口先だけの夢を語って低く留まり続ける二人。


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 2017/02/23:やわらかな午後(承吉良) (23:35)

流し台に溜まった食器を洗う吉良は、蛇口から溢れる水の音や食器の擦れる自らの出す音をBGMにしていた。
茶碗が2つ、箸が2膳。二人分の食器は汚れも落ち、ほとんど泡立たない水がその線を流れ溢れ、シンクに流れていく。
普段使いの吉良の食器とは違うもう一つの食器。水を止めた吉良はそれを少し手に取り、眺めてみる。
陶器の滑らかさと硬さは、水に濡れて印象が違って見える。
暫しの間、それを眺めていた吉良はふと我に返り、食器たちを改めてもう一度軽く水でゆすいだ後に他の洗い終えた食器たちに重ねた。

洗い終えた食器も片付け、手洗いも済んだ吉良はそのまま茶の間まで戻ってきた。中に入った瞬間、窓ガラスを抜けて入ってきた光に目がくらむ。思わず一瞬目を瞑ってしまった吉良だが、反射的に光を避けるように下を見るとそこに人影が見えた。
驚いたように青い瞳が開かれるが、すぐに合点が着いたのか目元が和らぐ。

「…こんなところで寝てると風邪をひいてしまうよ」

静かにそう囁いて、吉良は一度部屋を後にした。そして、毛布を手に戻ってくる。
茶の間のちょうど日の光の入る場所で寝入っている空条にその毛布を掛けると、彼の隣に腰を下ろした。
じっと、観察するように、寝る承太郎を見つめる。酷く整った顔は、誰もがきっと注意を向けてしまうに違いない。ふっくらと膨らんだ唇と、通った鼻筋、長い睫毛。見る位置が変わっても、それでも吉良は承太郎の顔を眺め続けていた。




「…ん、」

ふと、目を覚ました承太郎はぼんやりと辺りを眺める。
西に傾き始めた日の光に照らされた部屋の中は、金木犀色に染まっていた。
よろりと腕で体を支えて起こすと、自分の腹に毛布が掛けられていた事に気付く。そして、それを掛けた相手は考えるより先に目で分かった。
自分の隣で眠る吉良。彼は自分に毛布をかけた癖に吉良自身は毛布をかぶっていなかった。
胎児の様に横向きで腹を丸めて眠る姿に微笑んだ承太郎は、自分が先ほどまで掛けられていた毛布を吉良に掛けてやるとそのまま立ち上がり、吉良をそっと抱き上げた。
筋力にある程度自身があっても、やはり成人男性一人を持ち上げるのはそう軽々とはいかない。持ち上げ、そのまま胸に乗せるように抱き上げる。
そして彼らはそのまま茶の間を後にした。


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 2016/12/29:冬な承吉良♀ (22:28)

女体化吉良さんと普通な承太郎さん

えっちなのが書きたかっただけです

more..
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 2016/03/19:吉良さんイタリア旅(没案) (15:49)



適当にぶらついてある程度空いていそうな店があればそこでいいか、などと思いながら吉良は歩き始めた。
歩く速度で流れゆく街並みを堪能しながら吉良はふとホテルへの道の途中の一つの店で足を止めた。喫茶店らしいが他の店の多くが開けた作りになっていてテラス席もあるというのにそこだけはこじんまりとたたずんでいた。路地に面したところには扉と、ひとつの窓とちょっとした植木が置かれているその姿は喫茶店というより民家兼食堂にも見える。他と少々趣きが違うせいかガラス越しに見る店内に客は一人しかいなかった。扉の隣に打たれたボードにはチョークでイタリア語と英語がつづられている。英語も使えるという安心感と人がほとんどいない雰囲気、そして民家風の料理らしいことに魅かれて吉良は扉を開いた。
店内を照らす照明はすこし黄色くて、部屋全体が暖かい雰囲気を感じる。早速適当な席に座ると壁にくくられた板に書かれたメニューを眺める。喫茶店らしい茶と菓子のメニューとは別で、普通に料理のメニューもかかっていた。どうも名前とちょっとした説明ではぱっとこなかったが、吉良は今日のおススメだというパンチェッタとかいう豚の塩漬けを使った料理を頼むことにした。
注文をとりにきた店員だという小太りの中年の快活そうな笑みとともに少しだけ英語で話し、
「美味いから待ってろよ」
と言って厨房へと戻っていった。その後ろ姿にイタリア人はどこでもあんななのか、と思いながら吉良はもう一度店を見回す。彼が座る二人用、向かい合わせの席は今座っているのも合わせて壁を伝うように3つ、四人席が中央に二つ。吉良が座った席がちょうど店の角につくような形で、立ち上がるのに問題はないが背もたれのさらに後ろには壁がある。ちょうど吉良の席の隣に設置された、ちょっとした小物が置かれたアンティーク系の鉄の華奢な台のせいでそれを挟んだ奥にいるもう一人の客は見えなかった。
今日回った場所で買ったパンフレットの英語記載ページを眺めたり出された茶を飲んだりして時間をつぶしているうちに料理が運ばれてきた。いわゆるベーコンらしいパンチェッタをモッツァレラチーズや野菜と共にロール状にした、サンドイッチの亜種のようなものだった。それと店主がおまけだと言ってアランチーニというライスコロッケのようなものも出された。正直米が恋しくないわけではないのだがこういうものではないんだが…と思うもありがたく頂戴することにした。
流石にすべて食べきれず、結果として頼んだサンドイッチもどきは食べきれたがアランチーニを残してしまった。「なんならホテル戻っても食べな」という店員から残ったそれを入れた紙袋を受け取り、会計を済ませ店をあとにした。
店を出ると夜の闇がとっぷりあたりを満たしていた。町の灯りがこの狭い路地の中ではどこか遠くに思える。ここからさらにある程度歩いてから曲がれば吉良が同僚らと滞在しているホテルに行ける大きな道にいける。吉良は久しぶりのホテルの部屋以外のあまり人がいない空間を楽しんだ。

「また、来てもいいかもな」

1人そんなことを言ってみた吉良は、まだ温かい紙袋を抱えて歩き始めた。



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 2016/01/26:承吉良 (21:44)

酔いつぶれた吉良さんを吉良邸に連れて行った承太郎さんな承吉良




なんとか吉良を家まで連れてこれた承太郎は吉良を布団に寝かせそのネクタイとベルトを緩めた。

「……元始、女性は太陽であった」

呂律が回らないはずだというのに少しはっきり聞こえた。ベルトのバックルを掴み引き抜いていた最中の承太郎はなんだどうしたと思わず吉良の顔を見る。
相変わらずの火照った顔だが、その青い目はしっかりと承太郎を見つめていた。

「しかし今、女性は月である」
「平塚雷鳥か」
「ああ、そうだよ……」

酔いが少しばかり醒めてきたらしい。にやりと口元を歪めた吉良は承太郎のベルトを掴む手に己の手を伸ばし掴むと、そっと己の顔まで引き寄せ口をつけた。

「狼男ってどうやって狼になるか知ってるかい」

不意な質問に承太郎は一瞬途方に暮れた。だがすぐに呆れたように笑うと

「月を見るとなるんだよな?」

と言って彼の顔に己の顔を近づける。

「私は女ではないが…」

至近距離で動く薄い唇に目が釘付けになる。

「君を狼に変える、月にならなってみたいものかな」

薄く微笑んだ吉良がとてつもなく美しくて、この先ほどまでの謎の言葉が自分を誘っているのだと気付いた承太郎は最初の彼の様ににやりと口角を上げた。

「テメェに向かって吠えるだけの犬だと思うなよ」
「せいぜい、溺れて死なないでくれよ」


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君、一件を探したまえ。
それは
虚無を開拓する事。
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