二十万打 | ナノ
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▼リカレント

「…………、っ!」

朝起きたとき、二宮くんの綺麗な寝顔が至近距離にあったせいで危うく悲鳴を上げてしまいそうになった。
ああそうだ、昨日は二宮くんのお家に泊めてもらったんだっけ。とりあえずこの距離に二宮くんの顔があるのは心臓に悪いし寝息が前髪に掛かって死ぬほど恥ずかしいから背中を向けたい。向けたいのに、腰に回されていた腕はまるで私の心を読んでいるかのように緩む気配すら見せない。とんだ羞恥プレイだ。私は固く目を閉じて考えることを放棄した。いっそもう一眠りできたらよかったのだが、私の神経はそこまで図太くなかった。

どのくらい経ったんだろう。二宮くんが気怠そうにもそりと動いた。腰に巻き付いていた腕がゆっくりと離れていって頭上の目覚まし時計で時間を確認しているのを感じる。今がチャンスだと私はさっと寝返りを打った。よしこれであの羞恥プレイとおさらばでき、

「…………名前」

寝起き特有の掠れた声で名前を呼ばれた。
首筋に柔らかくて少しかさついた何かが触れる。一つ、二つ、三つ、とキスが落とされる度に昨夜のことを思い出して肩を揺らしていると、二宮くんがふっと小さく笑ったのが分かった。恐らく狸寝入りなのは完全にバレている。だけどこんなことをされては目を開けるに開けられない。

そうこうしている間にシャツの裾から骨ばった手がするりと入ってきた。
私は我慢出来ずに目を開けた。





「名前、それ二宮くんのシャツじゃないの?」

加古ちゃんが楽しげにそう言った。そうですおっしゃる通りです。サイズが合ってなさすぎてすぐ分かっちゃうよね!知ってた!!
恥ずかしすぎて真っ赤になったまま俯いていると、不意に加古ちゃんの腕が首元に伸ばされた。苦しいからと開けたままになっていたシャツの一番上のボタンに手を掛けた加古ちゃんは呆れたように息を吐く。

「ボタンは上まで閉めた方がいいわよ」
「えっ」
「痕」

加古ちゃんはその単語だけを口にして指先でトントンと自分の首筋を叩いた。意味がないと分かってはいたけれど、私は両手で首を押さえた。
今なら羞恥心で死ねる。

「おい加古、余計なことをするな」
「ひ、酷いよ二宮くん……!何で家出る前に教えてくれなかったの!?」
「気付かなかった」
「うそ!付けたの自分でしょ!?」

あと今「余計なことをするな」って言ったの聞いてたからね!確信犯じゃん!
なんて私が怒っているというのに二宮くんは涼しげな顔で私を宥めるようにポンポンと頭を叩いた。こ、こんなので騙されるもんか!私は今すごく怒って……、

「……名前、そんなんだから今日みたいに気付かない間に恥ずかしい思いをしなくちゃいけなくなるのよ」
「うっ」
「二宮くんも。あんまり名前を苛めちゃダメよ」

二宮くんは返事の代わりに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。改善する気はなさそうだった。
とりあえずしばらくは二宮くんの家に泊まりにいくのは控えよう。そう思っていたはずなのに一週間もすればその決意なんて簡単に崩れ去ってしまって、私は再び同じ過ちを繰り返すのだった。

title/箱庭


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