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空っぽになった宝箱

赤司に言われた通りみやびの荷物を片手に二人が住むマンションを訪れた。入口でインターホンを押したが返事はない。いないのかと思ったが生徒の荷物を持ったままにしておくのは何だか気まずかったため、悪いとは思いつつもちょうどやって来た宅急便のおっさんの後に続いてマンションの中に足を踏み入れた。別に悪いことをしに来たわけじゃないのに緊張するのはなぜだろう。

「あの」
「うわあ!?」

背後から声をかけられて大声を出してしまった。ばくばくと音を立てる心臓を落ち着けながら振り返れば、よく見知った顔がオレを見上げていた。

「どうも火神くん、お久しぶりです」
「黒子!?」

何でお前がここにいるんだよ!と言いかけて口をつぐむ。そういやコイツ、赤司に言われてしばらく保父の仕事から離れてコンシェルジュになるって言ってたな。どこのマンションなのかは知らなかったけどまさか赤司が住んでるマンションだったとは。アイツ、みやびに対してどんだけ過保護なんだろ。

「赤司くんに用事ですか?」
「おー。嫁の荷物持ってこいってさ」
「………そうですか」

いつも通りの無表情にどこか緊張の色を滲ませた黒子が小さく頷く。最後にかけられた応援の言葉は何だったのか。特に気にもとめずに赤司の部屋へと向かったオレは地獄を見る羽目になる。

「自分で呼び出したくせにアイツいないのかよ」

部屋の前でインターホンを押してもやはり返事はない。仕方がないから取っ手に引っかけて帰ろうとしたオレはふと玄関のドアに鍵がかかっていないことに気が付いた。

「おい赤司……いるのか?」

そろり、ドアを開けたオレの目に飛び込んで来たのはキラリと光る銀色の何かで。
慌てて頭を下げればそれはドアに突き刺さった。

「おまっ…あぶねーだろ!」
「火神……」

腰を抜かすオレを赤司が無感動に見下ろす。目が完全に据わっていた。初めて会ったときもだいぶヤバい印象を受けたけどあれとはまた違った恐怖を覚えた。
殺される。

「あ、アイツは!?みやびはどうしたんだよ!」
「お前の汚い口であの子の名前を呼ぶな」

ドアに突き刺さった鋏を引き抜いた赤司がピシャリと言った。逃げようにも足に力が入らない。何なんだよこの尋常じゃない荒れようは。みやびは無事なのか?部屋の奥で血だらけで倒れてるとか言わないよな!?

「オレは言ったはずだ。オレの目が届かない場所だからこそ、あの子のことをきちんと見てやってほしいと」

そう、言ったのに。
赤司の手から鋏が落ちる。赤司はやっぱり無表情だったのに、なぜかオレには今にも泣き出しそうに見えた。


***


目についたのはたぶん、その子がこの辺りで有名な私立校の制服を着ていたから。ましてや声をかけたのは気まぐれだった。

「ねえキミ、どうしたんスか?」

券売機の前に突っ立っていた女子高生が振り返る。シャンプーのCMに出られそうなくらいサラサラな髪の毛だなーなんて思ったけど後ろ姿だけでなく顔の作りもお人形みたいに綺麗な子だった。今日一緒に仕事したモデルの子よりまつげ長いし。あの子はつけましてたけどこれ自前だよなあ。この場ではどうでもいいことを思った。

「切符の買い方が分からなくて…」
「ありゃ、電車乗ったことないんスか?」
「…はい」

恥ずかしそうに俯く彼女の目元は赤い。そのことに気が付かないフリをしてどこに行きたいのか尋ねると、彼女は小さな声で目的地を告げた。ここからだと電車を何度か乗り換えなければならない。電車は初心者みたいだけど大丈夫かな、と思いながらとりあえず切符の買い方を教えてあげた。

「何回か乗り換えないといけないけど大丈夫?」
「たぶん……」
「まあ、分かんなかったら駅員さんに聞いたらいいし!間違えても焦ることはないっスよ」
「はい、ありがとうございます」

何度も頭を下げる彼女を笑顔で見送った。それにしても女子高生が一人であんなに遠くまで行くなんて。おばあちゃん家にでも行くのかな?あれ、だけど遠出するにしてはえらく軽装だったような。

「オレも今度休みとって電車でぶらり旅でもするかなあ……」

ていうか仕事でそういうのないかマネージャーさんに聞いてみようかな。オレの頭から名も知らぬ女子高生の存在はきれいさっぱり抜け落ちていた。

title/秋桜