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明日への道を噛みちぎる

赤司さんに腕を掴まれたまま校内から連れ出される。校門近くに止めてあった車に私を押し込んだ彼は、私を奥に追いやるように自分も乗り込んできた。

「出してくれ」

運転席に座っていた実渕さんは無言のまま車のエンジンをかけた。バックミラー越しに見えた彼の顔は困惑しているように見える。ついでに自分の顔も。

「あ、の……えっと、荷物が……」
「後で火神に回収させる」

短い答えだった。普段から口数が多い方ではないけれど今日の赤司さんはいつにもまして不機嫌そうで、私はできるだけ赤司さんから離れた席で縮こまる。
赤司さんに掴まれていた右腕は真っ赤になっていた。

実渕さんの運転で向かった先は自宅であるマンションだった。赤司さんは実渕さんに一言二言指示を出すと再び私の腕を掴んで車から引きずり降ろす。転びそうになりながらも一度だけ実渕さんを振り返れば、彼は困ったように眉を下げてこちらを見つめていた。
いつもは愛想よく挨拶をしてくれるコンシェルジュも赤司さんが不機嫌なのはすぐに気が付いたらしい。何も言わず頭を下げる彼に私も小さく会釈を返したけれど、赤司さんはそれさえも不満なのかぐいぐいと私の腕を引っ張る。エレベーターの中でも部屋までの廊下を歩いている間も、赤司さんは終始無言だった。

「あの、赤司さ……」

玄関のドアを開けて中に入ってから彼はようやく私の腕を離してくれた。と思ったら肩を思い切り掴まれてドアに押し付けられる。彼と良好な関係を築けてはいないのは重々承知だがこんなに乱暴な扱いを受けたことはなかった。恐怖に震えながらおそるおそる赤司さんを見上げる。赤司さんは不機嫌を通り越してかなり怒っているようだった。

「まずは君が疑問に思っていることから答えてあげようか」

決して怒鳴り付けられているわけではない。だけどその声は静かに怒りを孕んでいて、私はただただ彼の整った顔を見つめることしかできなかった。

「出張に行っているはずのオレがなぜ文化祭に来たのか。招待券なんて持っていないはずなのに、日程も知らなかったはずなのに、なぜ?そう聞きたいんだろう?」

私は何も疑問を口にしていないのに、赤司さんは私が思っていることを淡々と述べた。驚く私に赤司さんは簡単なことだと無表情にそう続ける。

「招待券は緑間経由で手に入れた。出張は黛さんに行ってもらったよ」

ああそうだ、緑間さんは私たちの関係が円滑に進んでいると信じ込んでいた。きっと赤司さんが私の文化祭より出張を優先したことが不思議だったのだろう。 こういうものはその辺の人間に簡単に渡していいものではないと、呆れたようにそう言った緑間さんを思い出す。何で残りの二枚も渡しちゃったんだろう。緑間さんの分だけ渡しておけば、赤司さんは出張を他の人に任せてまで来なかったのに。
重役である赤司さんがわざわざ出向かなければならないほどの出張だったのだから、きっと大切なものだったに違いない。俯きながら小さく謝ると、赤司さんはそんな言葉は聞きたくないと私の言葉を突っぱねた。

「まあ、オレに来てほしくなかった理由は何となく分かったけどね」
「……?」
「浮気現場なんて見られたくなかっただろう。察してやれなくて悪かったね」

言葉の意味が分からない。再び顔を上げると彼は笑みを浮かべていた。それは微笑みなどではなく、自嘲に類されるものだった。

「浮気、なんて」
「していたじゃないか。爽やかで優しそうな男だったね。オレもまだ若いと思っていたけれど、やはり同じ年頃の方がよかったかな」

この人は何を言っているのだろう。私が浮気をしただなんて、そんなことあるはずないのに。

「わたし、そんなことしてない……!」
「別に気を遣う必要はない。君がオレに特別な感情を抱いていないことはよく知っているから」

違うのに。そんなことないのに。どうして赤司さんはそんなことを言うんだろう。
特別な感情を抱いていないのは、赤司さんの方でしょう?

「だけどね、オレの妻が浮気をしているだなんて世間的に不味いんだ」

掴まれた肩がギリギリと痛む。顔を歪める私の耳元で、赤司さんは耳を疑いたくなるような言葉を告げた。

「君には転校してもらう。手続きはこちらでしておくから心配しなくていい」
「な……、」
「いいね」

有無を言わせない雰囲気で赤司さんはそう言った。鋭い視線は肯定の言葉以外許さないと言っている。何か言わなくちゃ。口を開いても出てくるのは言葉にならない空気だけだった。

「返事は?」
「………や、」
「何?」
「いや……!」

赤司さんの綺麗な眉がぴくりと動く。いつもならそれだけで畏縮してしまって何も言えなくなるけれど、私の意見も聞かずに転校しろだなんてあんまりだ。
せっかく高尾さんと仲良くなったのに。火神先生がマンツーマンでお料理教室まで開いてくれているのに。
お父さんとお母さんがいなくても、赤司さんと上手くいかなくても、学校だけは楽しいと思えるのに。

「何か、気に入らない点があるなら直します……!家のことだって今以上に頑張るし、勉強だって」
「ダメだ」

涙腺が緩む。赤司さんの前では泣きたくなかったけれど、どんなに唇を噛んで堪えようとしても溢れる涙を止めることはできなかった。

「……な、で…?」

何で、どうしてダメだなんて言うの?私が何もできないから?私のことが、

「わたしのこと、そんなにきらいですか?」
「っ何を」
「もういい……」

赤司さんが何か言いかけたけれどもう何も聞きたくなかった。
いつの間にか私の肩から滑り落ちていた赤司さんの手が再び伸ばされる。その手に捕まる前にドアを開けて、涙で滲む世界に飛び出した。

title/サンタナインの街角で