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二つの円は重ならない

誰かが私の肩を揺すっている。思いの外強い力にうっすらと目を開けると、天井を背にした赤司さんが眉間に皺を寄せて私を覗き込んでいた。

「寝るなら自分の部屋に行け。こんなところで眠られても邪魔だ」

それだけ言い残してリビングから出ていこうとする赤司さんの向こう側に掛かっている時計は、11時を指していた。

「す、すみませんっ!私夕飯もお風呂も準備してなくて…」

どうやら洗濯物を畳みながら眠ってしまっていたらしい。慌ててキッチンに駆け込もうとした私を振り返ることもなく、赤司さんは素っ気なく「いらない」と告げた。

「今日は疲れたから早く寝たいんだ」
「でも…」
「シャワーを浴びてくるから。洗濯物を片付けたら君も早く寝ろ」

リビングのドアが乾いた音を立てて閉まる。結局赤司さんは一度もこちらを振り向いてはくれなかった。





「まあでも、最初のアレと比べたら成長したと思うけどねー」

彼女が肩を揺らして笑うたびに綺麗な黒髪が揺れる。彼女の言う最初のアレとは洗濯機の使い方さえ分からなかった頃の話だ。電源を入れて洗剤を入れてスタートボタンを押せば勝手に洗濯してくれるというのにその頃の私には使い方がさっぱり分からなくて、洗濯機の前で10分ほど右往左往していた。赤司さんには洗濯機さえまともに使えないのかと呆れられてしまって、私は洗濯機の使い方を教えてくれと出会って間もない彼女に泣き付いたのだ。

「成長、してるのかな……?」
「してるしてる!みやびが頑張ってるのはちゃんと分かってるから自信持ちなよー」

ケタケタと声を上げる彼女に小さく笑みを返して、本日も失敗作となってしまったナポリタンを箸に絡める。それをやんわりとした動作で止めた高尾さんは、自分の弁当箱を私に傾けた。

「これとかなかなか美味しいよ?兄貴が作ってくれたんだけどさー」

慣れた手付きで私の弁当箱の蓋におかずをいくつか置いてくれる高尾さん。彼女のお兄さんは赤司さんの知り合いらしく、私が結婚していることを知っている数少ない一人である。

「ダメだよ…。高尾さんが食べる分が減っちゃうから、」
「気にしないでよ!それに、そんなの食べてみやびにお腹壊される方が困るんだから」

そんなの、と呼ばれた私の弁当箱はいつの間にか机の隅に追いやられていた。ああ、今日も失敗しちゃったな。半ば押し付けるように渡した赤司さんのお弁当はどうなったんだろう。根武谷さんに押し付けたか、はたまたゴミ箱行きか。

「……おいしい」
「かわいい女子高生にそう言ってもらえたら兄貴も喜ぶよ」

高尾さんのお兄さんが作った卵焼きはふわふわでほんのり甘くてとても美味しくて。私の歪な形の塩辛い卵焼きとは大違いだ。

title/サンタナインの街角で