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過ちが迎えにくるまで

おばあちゃん家で一晩明かしたのは失敗だった。修造さんの言った通り誰もいないから心細かったし、それに何よりこれからどうなるのだろうと不安で仕方なくて。日付が変わっても寝付くことができず、結局眠りに落ちたのは夜明け近くになってからだった。

「で、お前いつ帰んの?」
「えっ」

起きるのがすっかり遅くなってしまった私を叩き起こしに来た修造さんにそう言われてどきりとする。そうだ、今日は日曜日。明日から学校だ。だけど今さらどんな顔をして赤司さんの元に帰ればいいんだろう。それに転校しろって言われたし、今帰っても明日から違う学校に通うことになるのかな。

「電車で帰るんだろ?駅まで送ってやるから」
「あー、その……」

とりあえずまだ赤司さんが転学手続きをしていないのなら明日は文化祭の振替休日でお休みのはず。
まだ帰りたくない。赤司さんには会いたくない。

「うちの学校、明日は振替休日だから……。明日帰ろうかなって」
「……ふーん」

逃げていたって何も変わらないのに。赤司さんに会いづらいのも転校しなくちゃいけないことも、何も。

「ま、明日までいるならいいや。お袋がみやびに手料理を振る舞うんだって意気込んでてさ」
「わ、お手伝いしなくちゃ」
「言っとくけどみやび、お前台所に入るの禁止。大人しくしてろ」

だけど私は子どもだから先のことまでは考えられない。



おばさんが振る舞ってくれた夕食はとても美味しかった。久しぶりにこんなにまともな食事を食べた気がする。全てのおかずに箸を付けるたびに美味しいと口にすれば、気をよくしたおばさんは手書きのレシピをくれた。明日帰るときにはお弁当まで作ってくれるらしい。
食後、修造さんのせいで食器の片付けさえさせてもらえなかった私は修造さんに連れられて近所を散歩することになった。

「食器くらい洗えたのに」

不貞腐れる私の頭を修造さんが笑いながら軽く小突く。私とは十も離れているのに年の近いお兄さんみたいだ。少し前を歩く大きな背中を見つめていれば、急に修造さんは足を止めて振り返った。

「……お前さ、本当にちゃんとやれてんの?」

不意に修造さんがそう言った。意味が分からず彼を見上げると、外灯の下で修造さんは心配そうな顔で私を見下ろしていた。

「親父もお袋も、お前が一人でこんなところまで来たのを心配してた」
「っ、」
「なあ、何でこんな田舎まで来ようと思ったわけ?」

緊張で口が渇く。咄嗟に昨日聞かれたときと同じ理由を述べたけれど、嘘を付くなと鋭く言われた。
誤魔化せたと思ったのに、何で。固まる私に修造さんは呆れたように息を吐く。

「普通は夏休みでも何でもないのにこんなところまで来ないっつーの」

私はやっぱり子どもで、大人には敵わないらしい。この人にも、赤司さんにも。

「………わたし、」

言いかけて口をつぐむ。私は一体何を言うつもりなんだろう。私と赤司さんの間には何もないのに。文字通り、何にも。
視界の隅で修造さんの手が動く。私に向かって伸ばされる。だけどその手が私に触れる前に背後から伸びてきた手が私の腕をガシリと掴んだ。

「…っ!?」

突然のことに心臓が大きく跳ねる。おそるおそる振り返ると、肩で息をした赤司さんが私を見つめていた。

title/サンタナインの街角で