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私にとって鳩ちゃんが一番だったように、鳩ちゃんの一番も私だと思っていた。東さんでもユズルでも二宮さんたちでもなく、鳩ちゃんにとっての一番は自分だと信じて疑わなかった。
だからどこの誰かも分からないあの人が当たり前のように鳩ちゃんの隣にいたのが悔しかった。ずっと隠し事をされていたことも、鳩ちゃんが私よりあの人を優先したことも。

大好きな鳩ちゃんに「友達じゃない」って言われたことも、すごく悲しかった。





11 あなたがいない正しさを知る





いつだったか、鳩ちゃんが知らない男の人と喫茶店で話し込んでいるのを見かけたことがある。相手は二宮さんと同じくらいの年頃に見えたからたぶん大学生だった。
鳩ちゃんはそんなに交友関係が広い方ではなかった。ボーダーでもない男の人と一緒にいるのは珍しいことだった。

「ねえ鳩ちゃん、昨日喫茶店で一緒にいた人って、もしかして彼氏!?」

鳩ちゃんに浮いた話なんて聞いたことがなかったから私はすっかり興奮してしまって、食い気味で鳩ちゃんにそう尋ねた。だけどいつもなら顔を真っ赤にして否定するはずの鳩ちゃんは驚くほど無表情のまま首を横に振って「ただの知り合いだよ」と言った。
その話は触れてほしくなさそうだったから、私は深く追及しなかった。

鳩ちゃんがその男の人と一緒にいるところはその後も何度か見かけた。だけど何度聞いても鳩ちゃんは頑なに「ただの知り合い」だと言い張った。
ただの知り合いにしては頻繁に会っているようだったし、頻繁に会う割にはどこかこそこそしていたように見えた。
私はやっぱり彼氏なんじゃないかと思った。だってその頃から急速に、鳩ちゃんの付き合いが悪くなっていったから。

以前は休みが重なれば必ず遊びに行っていたのに、何かと理由を付けて断られるようになった。話しかけても上の空だったり、ケータイを触っている鳩ちゃんを背後から驚かそうとしたときには任務中でも見たことがないような俊敏な動作でケータイを隠されたり。

「ご、ごめん…」

そういうとき鳩ちゃんはいつだって申し訳なさそうな顔をした。だから私は「気にしてないよ」と笑顔を浮かべるように心がけた。
だけど他でもない鳩ちゃんに隠し事をされているという不満は、だんだんと腹の中に溜まっていった。



そして、その日が来た。

その日は久々に鳩ちゃんと遊ぶことになっていた。本当に久しぶりだったからテンションが上がって、学校がある日よりも早起きして身支度を整えて家を出た。
今日は何をしようかな。見たい映画もあるしクラスの子が美味しいって言ってた新作のフラペチーノも飲みたい。久しぶりに洋服も見たいなあ…。
だけどそんな遠足前の小学生気分もすぐに憂鬱なものに変ってしまう。

『二宮さんに呼ばれて作戦会議に行かなくちゃいけなくなったから遊べなくなりました。ごめんなさい』

「ええー…」

待ち合わせ場所に着いてからそのラインに気付いた。いつもは家を出る前に一度確認するのに浮かれていたせいですっかり忘れていたのだ。
空気読んでよ二宮さん。不満に思いながらも私は『分かった!また今度遊ぼうねー』と返信した。その日は私が本部に行かない限り、鳩ちゃんには会えないはずだった。
それなのに私は、二宮さんに呼び出されたはずの鳩ちゃんが例の男の人と一緒に街中を歩いていたところに出くわしてしまったのである。

「え…はと、ちゃん?」

見間違いかと思った。だって今彼女は二宮隊のみんなと一緒にいるはずだ。作戦会議があるから遊べないって聞いてたのに。
どうしてそんな嘘を吐いてまで、「ただの知り合い」と一緒にいるの…?

「咲菜、ちゃ…」
「え、っと…?作戦会議は終わった、の?」

鳩ちゃんは完全に血の気が失せたような表情で私を見つめていた。私も私でどうしたらいいか分からなくて、働くのを拒否する頭を必死に動かして言葉を探す。

「鳩原さんのお友達?」

それまで無言で私と鳩ちゃんを見守っていた男の人がそう口を挟んだ。鳩ちゃんはハッとしたように肩を揺らすと、彼の腕を掴んで叫ぶように言った。

「ち、違いますっ!友達なんかじゃ、」

友達じゃない。鳩ちゃんの口から否定の言葉が溢れた瞬間、腹の中に溜まっていたドロリとした何かが溢れ出して体中に広がっていった。
もう我慢できなかった。

「……うそつき」

うそつきうそつきうそつき!今日は私と遊ぶ約束だったじゃん。作戦会議があるって言うから仕方がないと思って諦めたんだよ?
それなのに作戦会議があるっていうのは嘘で、その人とデートするために私との約束を断ったってこと?その人はただの知り合いなんじゃなかったの?
友達なのに、一番仲がいいのに、親友だと思ってたのに。私のことを、友達じゃない、って?

「私が大人しく引き下がるって分かってて二宮さんの名前を出したみたいだけど、彼氏とのデートは友達との約束よりそんなに大事なものだった?」
「っあ、」
「ああそっか、友達じゃないんだっけ。ごめんね、友達ヅラしちゃって」
「ち、ちが…っ!咲菜ちゃ、」
「いい加減にしてよ!!」

あのとき何を言ったのか、頭に血が上っていた私はもう覚えてない。バカとかサイテーとかビッチとか、思い付く限りの暴言を吐き続けたと思う。

鳩ちゃんは何も言わなかった。言い訳もしなかったし私の暴言に対して言い返すこともしなかった。ただ俯いて私の罵詈雑言の数々を聞き続けていて、その態度は私をさらに苛立たせた。

「鳩ちゃんなんて大っ嫌い!もう顔も見たくないからどっか行ってよ!!」

私は最後にそう吐き捨てた。そうしたら次の日、鳩ちゃんは本当にいなくなってしまった。
これを私のせいだと言わずして何と言うのだ。誰が聞いたって私のせいだと思うに決まってるのに。



それなのにどうしてこの人は、そんなことを言うのだろう。

「鳩原が消えたのはおまえのせいじゃない」
「……ちが、わたしがっ」
「おまえのせいじゃない」

聞き分けの悪い子どもに言い聞かせるように、二宮さんは何度も何度も泣きじゃくる私にそう言い続けた。
二宮さんに頭を撫でられたのは本当に久しぶりのことだった。

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