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▼ 嫌いになれない

付き合い始めてから初めての彼氏の誕生日。きちんと祝ってあげたいと思ったその気持ちさえ彼にとっては重いものだったのだろうか。

「面倒くせぇな…」

投げやりにそう言った大輝は照れ隠しと言うよりむしろ煩わしそうに見えて。
元々そういうことに無頓着そうなのは分かっていたけれど、そんな反応をされるのは心外だった。



「突然ごめんね、黒子くん」
「それは構いませんけど……青峰くんはいいんですか?」
「……あんなヤツ知らないし」
「はあ…」

困ったように息を吐いた黒子くんがそれ以上追及してくることはなく、突然呼び出したお詫びにと私が奢ったバニラシェイクのストローを躊躇することなくくわえた。普段は紳士な黒子くんだけどその辺はちゃっかりしていると思う。

「……何で私、あんな男と付き合ってるのかなあ」
「随分な言い様ですね」
「だって本当のことじゃん」

自嘲気味に笑って食べかけになっていたチーズバーガーにかじりつく。あ、そういえばピクルスが入ってるんだった。いつものようにこれ食べて、と向かい側に座る彼に言いかけて口をつぐむ。向かい側に座っているのはアイツじゃない。不思議そうな顔をする黒子くんに曖昧に微笑んだ。

「………あんな男のどこが好きなんだろ」

バカだしガサツだし胸の話しかしないしガングロだし。彼女が誕生日を祝いたいと言ったら面倒くさいと言うような最低な男だ。それなのにどうして私はアイツと付き合っているのか。どうして嫌いになれないのだろうか。

「なまえ」

聞きなれた声が聞こえた。ハッとして顔を上げると、バツの悪そうな顔をした黒子くんの真後ろに大輝が立っていて。不貞腐れたような顔で私を見下ろしていた。

「お前、今日が何の日か分かってんのか?」
「え、」
「誕生日なのにメールも電話も寄越さねえからどうしたんだと思ってたら、テツからお前と一緒にいるってメールくるし」
「は?いや……だっ、て」

だって大輝、面倒くさいって言ったじゃん。私がお祝いしたいって言ったら、煩わしそうな顔したじゃん。口に出した途端あのときの大輝の表情を思い出してしまって、私は唇を噛んで涙が零れそうになるのを堪えた。

「……わりぃ」

大輝の大きな手が私の頭をガシガシと撫でる。いつの間にか黒子くんの姿は消えていて、向かい側の席には黒子くんではなく大輝が腰を下ろしていた。

「照れ隠しのつもりだったんだけど」
「……そんな風には見えなかった」
「だから悪かったって」

頭から下りてきた手が私の頬を緩く摘まむ。私が不貞腐れた顔をすると大輝はいつもそうやって笑わせようとするのだ。彼の思惑通り小さく笑ってしまった私に満足したらしい大輝の手はさらに下降していって、私の食べかけのチーズバーガーに伸ばされた。

「ピクルス食べてやるから機嫌なおせよ」
「……ん」

長い指がチーズバーガーの間からピクルスを摘まみ上げて口の中へと運ぶ。それを眺めながら大輝の名前を小さく呼ぶと、大輝は指についたケチャップを舐めながら視線だけをこちらに向けた。
ああもう、カッコいいなちくしょう。

「……ハッピーバースデー」

大輝が嬉しそうに目を細める。いつもは全てがつまらなさそうな顔をしているくせにこんなときばっかりそういう顔をするなんてずるい。
だから私はコイツが最低だと思っても嫌いにはなれないのだろう。

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