短編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 笹の葉、さらさら

私は緑間くんのように占い信者というわけではないが、毎日欠かさずおは朝占いを見るようにしている。蟹座の順位が良いときは機嫌がいいから私が話し掛けても特に不機嫌そうにはしないし、順位が悪い日の彼は神経質だからできるだけ近寄らない。隣の席だからなかなか難しいけれど。
そんな蟹座の今日の順位は3位でラッキーアイテムは笹の葉。まさに七夕にぴったりのものだ。なんて思っていたのは一時間ほど前のこと。

「……あ、うん。やっぱり持って来たんだ」
「今日のラッキーアイテムだからな」

おはようよりも先に出た高尾くんのコメントに緑間くんは得意気な顔をする。彼は予想通りかなり立派な笹の葉を持って登校してきた。授業中は邪魔になるからと教室の隅に立て掛けられていたけれど七夕だからか特に違和感もなくて、むしろクラスメイトたちは先生が用意してくれた短冊に各々の願い事を書いて吊るしていた。オレのラッキーアイテムに何をするのだよ!と怒る緑間くんを高尾くんが言葉巧みに宥めている。私はその傍らで緑色の短冊とにらめっこしていた。

「あれ、みょうじちゃん書かないの?遠慮しなくていいのに」
「お前は少しは遠慮するのだよ!」

もはや漫才のような二人のやり取りに小さく笑って再び短冊に視線を落とす。別に緑間くんに遠慮しているわけでも願い事がないわけでもない。ただ書く勇気がないだけで。

「なまえー!一緒に吊るそうよ!」
「……あ、うん!ちょっと待って!」

短冊に走り書きして席を立つ。名前を書かなかったのはわざとだった。





「みょうじ」

HRが終わり、さっさと帰ろうとバッグを肩に掛けたところで緑間くんに呼び止められた。彼の手に握られた笹の葉はクラスメイトたちによって飾り付けられたおかげでかなり豪華になっている。

「緑間くん、部活は?」
「その前に聞きたいことがあるのだよ」

思いの外HRが長引いたため、部活に遅れそうだとクラスメイトたちは慌てたように教室を飛び出していた。そのせいで教室はすぐに空っぽになって、いつも緑間くんと一緒にいる高尾くんさえいない。緑間くんと二人きりということにかなりの緊張を覚えながら自分の爪先を見つめる。何かしてしまっただろうか。顔を上げて緑間くんと目を合わせる勇気は全く出なかった。

「"誕生日おめでとう"」
「……!」
「書いたのはお前か?」

弾かれたように顔を上げる私を緑間くんが無表情に見つめていた。何も言葉が出てこなくてただただ小さく頷く。何で分かったんだろう。わざと名前書かなかったのに。

「……あの、ごめんなさい」
「なぜ謝る」
「えっと……その、願い事じゃないし……?」

わざわざ私を呼び止めたということは迷惑だったのかもしれない。いや、もしかしたらどうして自分の誕生日を知っているのだろうと訝しく思ったからかも。気持ち悪かったかな。どんどんネガティブな思考に陥っていって、先ほど上げた顔は再び下を向いてしまった。

「別に謝ってほしかったわけではないのだよ」
「…はい」
「ただ、どうせなら直接言ってほしかった」
「……え、」

予想外の展開にそっと視線を上げる。
緑間くんは無表情だった。無表情だったけどその表情はいつもより強ばっているようで、どこか緊張しているようにも見えた。

「あ……お、おたんじょうび、おめでとうございます……」
「……ああ」

日直が閉め忘れた窓から入り込んだ風が笹の葉を揺らす。その向こうに見えた緑間くんの表情は嬉しそうに緩んでいて、私は顔に熱が篭るのを感じずにはいられなかった。

prev / next

[ back to top ]