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▼ ある夏の日の話

※『狐に嫁入り』をリメイクしようとしたら何だかよくわからない話になりました。

※何でも許せる方のみお進みください。










小学生の頃、いつも友達と遊んでいた公園は家から結構な距離があった。一旦家にランドセルを置いてから集合するとどうしても私が一番最後になってしまう。それは夏休みでも同じことで、お昼ごはんを食べてから公園に遊びに行くと、やっぱり私がビリだった。

だけど夏休みのある日、私は一度だけ一番乗りになったことがある。その日の先客は知らない男の子の一人だけで、珍しいことに友達は誰も来ていなかった。

その男の子は私が公園に入ってくると弾かれたようにブランコから飛び下りて近くの茂みに隠れてしまった。たしかにブランコはいつも取り合いになるけど、二つあるんだから逃げなくったっていいのに。

「ねえ」

茂みに近付いて声をかけると、男の子は驚いたように目を見開いて私を見上げた。
きれいな顔立ちの男の子だった。着ている服もクラスの男子とは違って汚れ一つ見当たらない。
怯えたように縮こまる男の子を見て、私ってそんなに怖い顔してるかなあと悲しくなった。

「一緒に遊ばない?」

怖がらせないように一生懸命作った笑顔は下手くそだったかもしれない。だけど男の子はおずおずと頷くと、差し出した手をそっと握った。



結局その日友達は公園に現れず、私は時間も忘れて男の子と遊んだ。

「そろそろ帰らないと…」

日が暮れて来たら公園を出ないと、家に帰る頃には真っ暗になってしまう。寂しそうに私の手首を掴んで引き止めてくる男の子に「また遊ぼうね」と別れを告げて公園を出ると、さっきまでの夕暮れが嘘みたいに真っ暗になっていた。

「あっ、なまえちゃん!おばちゃーん、なまえちゃんいたよ!!」
「なまえちゃんってばどこに行ってたの?みんな心配してたんだよ!」
「どこって、いつもの公園で…」

意味が分からずにそう呟くと、私を取り囲んでいた友達の一人が「何言ってるの?」と怪訝そうに言った。

「なまえちゃん、来なかったじゃん」

振り返った公園には、誰もいなかった。






「おいやめろよ!誰がそんなガチな話しろって言ったよ!!」

合宿初日の夜は一年が怖い話をするのが恒例だって言ったのは宮地先輩なのに。意外と小心者だったらしい先輩は自分の枕をドスドスと殴りながらマジギレしていた。

「それって幽霊と遊んでたってことか?」
「やっ、やめろよ大坪!違うよなあ、お前が帰っちゃったからそのガキも帰っちゃったんだよなあ!?」
「あの世に連れて行かれなくてよかったなー」
「木村ァァァ!!」

宮地先輩が投げた枕が木村先輩の顔面にヒットしたところで、大坪先輩からの「明日も早いし戻っていいぞ」という言葉でお開きになった。

「緑間、みょうじを部屋まで送ってやれ」
「分かりました」

いくら先輩命令でも面倒くさいと拒否しそうな緑間くんは、意外にもすんなりと頷いて立ち上がった。



送ってくれなくてもいいのに、と思ったのは部屋を出るまでだった。消灯後の廊下の明かりは非常灯のみで、正直ここからマネージャーに与えられた部屋まで戻るのは怖すぎる。

「送ってくれてありがとう、緑間くん」
「別に、ついでに飲み物を買おうと思っていただけなのだよ」

その割に小銭をポケットに入れるような仕草は見なかったけどな。なんて言ったら野暮なのだろう。「おやすみなさい」と告げて部屋に入ろうとすると、緑間くんが突然意味が分からない言葉を発した。

「幽霊なんかじゃない」
「え?」
「幽霊なんかじゃないのだよ」

緑間くんは何を言っているんだろう。一瞬そう思って、すぐにさっきの話をしているのだと気付いた。
友達はあの男の子を幽霊だと言って怯えていた。大人たちは気味が悪いと言って、あの公園で遊ぶことを禁止した。家が遠かったこともあってあの公園には近付いてすらいないけれど、友達の話では駐車場になったらしい。

「また遊ぼうと言ったのはお前だったのに」

手首を掴まれた。目の前にいるのは緑間くんなのに、脳裏を過ぎったのは帰ろうとした私を寂しそうに引き止めてきた、きれいな顔立ちの男の子。
だけどあの子の顔も名前も、何も覚えていない。

「知っているか、なまえ」

緑間くんが背を向けた大きな窓から、車のヘッドライトの光が差し込んできた。
一瞬だった。本当に一瞬、緑間くんの頭に三角形の耳のようなものが見えた。
見間違いなんかじゃない。私はこれを見たことがある。

「狐は人間を化かすのが得意なのだよ」

そういえばわたし、あの男の子と影踏みをした気がする。私が鬼だったときあの子の影を踏もうとしてあの子の影を見たら動物の耳みたいなものが見えて、それで。

『お狐様に化かされて、神隠しに遭ってたんじゃないかねぇ』

だから日が暮れたと思って公園を出たら実際はかなり時間が経っていたんじゃないか。おばあちゃんが言った言葉が、なぜか今になって急に思い出された。

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