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▼ 疎いのはどちら?

黒子くんの趣味は人間観察らしい。
その言葉通り彼はチームメイトや友人の異変に敏感だし、私みたいなただのクラスメイトが困っているときだって一番に気が付いて助けてくれる。
だからきっと、私が黒子くんに気があることくらい彼はとっくに気が付いているだろう。

「や、でもアイツそういうの疎そうだし」
「……火神くん、君は何も分かってない」

放課後の教室に黒子くんの姿はない。影が薄いから気が付かない……のではなく、カントクさんに呼び出されているということでHRが終わるとすぐに降旗くんと教室を出ていってしまった。残されたのは私の気持ちを知っている火神くんと意気地無しな私と、昨日一時間以上かけてラッピングしたプレゼントだけ。火神くんにはいっぱい相談に乗ってもらったし協力もしてもらったけど、結局プレゼントを手渡す勇気は出なかった。

「あー……オレが渡しといてやろうか?」
「……そんなのダメだって言ったの火神くんでしょ」

何だかんだと言いながら火神くんは優しい。彼の申し出に首を振って鞄を肩にかけた。

「もう帰るね。いろいろ気にしてくれてありがとう」
「どうすんだよそれ」
「……お父さんへのプレゼントにでもしようかなあと」
「バカか!黒子のために選んだんだろ!?」
「でも、渡せなかった」

黒子くんは人をよく見ている。私が黒子くんのことが好きだということに、きっと気が付いている。それにただのクラスメイトからのプレゼントなんて下心が詰まってるってバレバレだし。
彼は中途半端に期待を持たせるようなことはしないだろうから安易にプレゼントを受け取ることはない。そしてそれは自分の好きだという気持ちまで拒否されたことと同義で。

『ボクはみょうじさんの誕生日に何もあげてないのに、もらえません』

そう言ってやんわりと断る黒子くんが容易に想像できる。申し訳なさそうに眉を下げて、首を横に振って。
分かりきった展開に立ち向かう勇気なんて、私は持ち合わせていないのだ。





「みょうじさん」
「っ!?」

校門を出たところで名前を呼ばれる。間違えようもない黒子くんの、綺麗で透き通った声。早まる心臓をおさえてきょろきょろと辺りを見回した。

「こっちです」
「、わ」

ビクッと肩を揺らして振り返ると、黒子くんは驚かせちゃいましたね、と申し訳なさそうに眉を下げた。違うのに。たしかにびっくりしたけど、黒子くんに話しかけてもらえてすごく嬉しかったのに。
だけど黒子くんを前にすると言いたいことの半分以上がどこかに飛んでいってしまう。口を開いたけれど言葉なんて出てこなくて、結局私は首を横に振ることしか出来なかった。

「もうお帰りですか?」
「う、うん……。黒子くんは部活?」
「はい。ですがみょうじさんが見えたので追いかけて来ちゃいました」

……そういうこと、ナチュラルに言うのやめてほしいんだけどなあ。勘違いしてしまいそうになるから。
私の気持ちなんて知らない黒子くんが何事もなかったかのように視線を落とす。何を見ているんだろう。黒子くんの視線を辿っていくと、その先にあったのは明らかにプレゼントだと分かる紙袋で。

「………っ!!」

カアッと頬に熱が籠る。慌てて後ろに隠したけれど、黒子くんは見なかったフリなんてしてくれなくて。「それ、何ですか?」なんて尋ねてきた。

「朝からずっと気になってたんです。誰かへのプレゼントですよね」
「こ、これは……!その、」
「渡さなかったんですか?」

どうして張本人にこんなこと言われないといけないんだろう。貴方に渡したかったけど渡せなかったんです、なんて言えるわけないのに。

「た、大したものじゃなくて」
「そうなんですか?」
「そう……そうなの。火神くんも応援してくれたんだけど、やっぱり怖くて……」

黒子くんにこんなこと言うつもりはなかった。これはもうお父さんへのプレゼントにするって決めたのに。早くこの場から立ち去りたい。帰りたい。心臓が口から飛び出すのと破裂するの、どっちが先なんだろう。そう思ってしまうくらい私の心臓はバクバクと音を立てていた。

「……渡す相手は火神くんみたいな人相が悪くて怖い人なんですか」
「え…、」
「まあこれだけの生徒数がいれば、今日が誕生日の人なんてボク以外にもいますよね」

黒子くんが言っていることの意味が分からない。表情も声色も何も変わらないように見えるのに何だか不貞腐れているように見えた。

「ボク、今日誕生日なんです」

突然のカミングアウトだった。予想外のそれに鞄が肩から滑り落ちる。知ってるよ、だってこれ黒子くんのために用意したんだもん。なんて、言えるはずがなかった。

「だからそれ、みょうじさんさえ良ければボクにくれませんか」
「えっ!?」
「渡せなかったものを家に持ち帰っても虚しいだけですよ。だからボクにください」

私が怯んだ隙に黒子くんが紙袋に手を伸ばす。もちろん抵抗なんてできるはずがなくて、あんなにうじうじして渡せなかった紙袋はすんなりと張本人の手に渡ってしまった。

「ありがとうございます」
「……っ、」
「ずっと欲しかったので、どんな形であれ嬉しいです」
「え、あの……え!?」
「では部活があるのでボクはこれで」

紙袋を軽く持ち上げて会釈した黒子くんをその場に突っ立ったまま見送った。何が起こったのかさっぱり分からない。
ずっと欲しかったって、何が?誕生日プレゼントが?それとも、

「………いやいやいや、それはない」

黒子くんは優しいから気を遣ってくれたんだ。黒子くんは一言も、私からのプレゼントが欲しいなんて言ってなかった。私がうじうじして渡せなかったから、渡せなかったプレゼントを持ち帰るのは虚しいだろうから、だから貰ってくれたんだ。でも。
私が黒子くんのこと好きだってバレてると思ってたけど。火神くんの言う通り、黒子くんってそういう方面には疎いのかもしれない。一人でうんうんと頷いて、とりあえず明日火神くんに報告だ!なんて意気込んだ。



「……疎いのはどちらですか」

黒子くんがそう呟いていたのを、私は知らない。

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