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▼ 喧嘩するほどキミが好き

紫原くんと喧嘩した。私が彼の誕生日を綺麗さっぱり忘れていたことが原因だった。
そりゃあ彼氏の誕生日を忘れるだなんて彼女として失格だと思うし反省している。だけどそんな私に罵詈雑言の数々を浴びせた紫原くんも十分悪いと思うわけで。

「紫原くんこれあげるー」
「わー、ありがとー」

だけどあっちはそうは思っていないらしい。私が近くにいるのを分かっているくせに、紫原くんはクラスメイトの女子からこれ見よがしにお菓子を貰っていた。私の存在は完全に無視である。
ムカついたので隣の席に置いてあった飲みかけのジュースを一気飲みした。この際ジュースの持ち主からの「何やってんだよみょうじ!それオレのだっつーの!」という怒りの声は無視である。
その騒ぎが聞こえたらしい紫原くんが怒りの形相でこちらを見ていたけれど、知らんぷりを決め込んだ。私ばっかりが悪いだなんて思ったら大間違いなんだから。





ご存知の通り紫原くんは子どもっぽい性格をしているし私は私で結構抜けた性格をしているしで、実は喧嘩なんて日常茶飯事のことだったりする。こないだも紫原くんとデートの約束があったのに友達との約束を取り付けてしまったことで喧嘩したばかりだ。いつもなら言い合いしても少し経てば普通に仲直り出来ていたのに、今回は仲直りの兆しが全く見られなかった。

「なんか今日の紫原荒れてんなー」

福井先輩の言葉通り今日の紫原くんはいつにもまして荒っぽいプレイばかりだ。今も紫原くんのダンクによって吹き飛ばされた氷室先輩に謝罪する素振りも見せず、彼は不機嫌な顔のまま次の犠牲者を探しているようだった。

「喧嘩すんなとは言わねえけどほどほどにしとけよ」
「…はーい」

どうやら次の犠牲者は岡村先輩に決まったらしい。助けを求めるような先輩の視線を無視して氷室先輩に駆け寄った。腰を打ったようだし湿布を貼った方がいいかもしれない。痛みが酷いようなら病院に行かないといけな、

「え」

ガシリ、腕が掴まれる。ちょっとそこ二の腕なんだけど触らないでよ!なんて、いつもなら叩ける軽口は全く出てこなかった。文字通り紫原くんに引きずられた私はさながら処刑台に連れていかれる囚人のようだった。

「……ねえ、オレ怒ってる」

前を向いたまま紫原くんはそう言った。想像していたよりも静かすぎる声に彼の怒りの度合いが手に取るように分かる。迂闊に言葉を発するのはまずいと悟った私は小さくうんと呟いた。

「なまえちんオレの誕生日忘れてるしオレが他の子と仲良くしても怒んないし」

彼氏が他の女と仲良くして怒らないわけないじゃん。そう言いたかったけど我慢した。そして誕生日の件はやっぱりまだ根に持たれていたらしい。

「でもオレはなまえちんがオレじゃない男と間接キスするのも他の男の心配するのもすごくムカついた」

ようやく足を止めた紫原くんがこちらを振り返る。泣きそうな目に罪悪感が募った。氷室先輩の件は別として間接キスについては故意にやったことだ。私だけが悪いなんて思わないでよね。そういうつもりでやったことだったけれど、今冷静に考えてみるとあれはさすがにやりすぎた。もし紫原くんが他の女と間接キスなんてしたら嫉妬ではらわたが煮えくり返るだろう。

「……ごめん」
「許さない」

泣きそうな目のまま紫原くんはそう言った。このまま別れ話にもつれ込むのだろうか。私までもが泣きそうになりながら彼を見上げていると、不安げな顔をする私に気が付いたのか紫原くんが私と視線を合わせるために腰を屈める。

「土曜日はデートね。オレの行きたいところに行って、オレがしたいことすんの」
「う、うん」
「あと、消毒させてくれたら許してあげる」

私から返事を聞く前に噛み付くようなキスを落とした紫原くんは満足げな顔をして私を見下ろしていた。

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