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  あったかもしれない「もしも」の話

※「世界一嫌いだと言ってくれ」のifです。「心中しようよ」の直後、夢主が本当にボーダーを辞めてしまったら。
※捏造だらけです。シリアスな話を書きたかっただけなので苦手な方はブラウザバックでお願いします。










タイトル:あの日死んだ恋の骨





私はボーダー隊員だったらしい。らしいと言うのは、私の記憶からはボーダーに入隊してからこの数年間が綺麗さっぱり抜け落ちてしまっているからだ。ボーダー本部からの帰り道で交通事故に遭ったらしく、医師からは「頭部挫傷による記憶障害でしょう」と診断された。

もちろん記憶喪失なんて漫画やドラマの中だけの話だと思っていたから、周りの話を聞いてもピンと来なかったし、特に自分がボーダーに所属していたなんて俄かに信じられる話ではなかった。
けれど私自身の記憶は中学生で止まっているのに鏡に映る自分の顔が少し大人びて見えたり、スマホの連絡先に登録されている知らない人たちの名前、ラインのトークメッセージに残っていた「任務」「合同訓練」「ランク戦」などの聞き覚えのない単語から、自分が本当に記憶喪失になってしまったのだと信じざるを得なかった。

私の記憶は中学生で止まってしまっているが、今の私は高校三年生で、大学進学を控えている。ボーダーに所属していれば推薦が貰えるらしいけれど、記憶がない私では難しい話だろう。入院中教科書を開いてみたけれど理解不能すぎて早々に諦めた。浪人云々の前に、無事に高校を卒業出来るかどうかすら危うい。

結局記憶は戻らないまま、退院を翌日に控えたその日。忍田さんと名乗ったボーダーの偉い人が、花束と一緒に私のお見舞いに来てくれた。ボーダーの偉い人がわざわざ訪ねて来てくれるだなんて。私は確かにボーダーに所属していたらしい。
忍田さんは私に、身体の調子や何か少しでも思い出したことはないかと尋ねたあと、「一つ、申し出があるんだが」と小さく微笑みながら言った。

「ボーダーから家庭教師を派遣しようと思うんだが、どうだろう。君の大学進学を、我々でサポートさせて貰いたい」

忍田さんの申し出は私にとってかなりありがたいもので、私は両親と共に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
派遣される家庭教師の先生は東先生という男性で、平日は放課後の2時間、土日は先生の都合がつく限り教えてくれるらしい。

そうして退院した次の日、約束の時間にインターホンが鳴った。はあい、と返事をしながら先生を招き入れるために大きく開いた扉の先で、背の高い男の人が、静かに私を見下ろしていた。





問題を解く手がピタリと止まると、先生はいつだって私が口を開く前に私の手元を覗き込む。

「どうした?」
「あ、えっと、ここの問題が…」

シャーペンの先で指し示すと、先生は静かに問題文を一読して、数学の教科書をパラパラと捲った。差し出されたページは昨日教えてもらったばかりのところで、自分の覚えの悪さに嫌気がさす。

「……すみません」

しょんぼりしながら呟くと、先生は「いいから、しょぼくれている暇があったら手を動かせ」と言って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。言っていることは素気ないし口数は少ないけれど、先生が私に対して怒ったことは一度もない。私が手を止めるとすぐに反応してくれるし、難しい問題が解けたら「よくやった」と褒めてくれるし、いつだって頭を撫でてくれる。先生はいつも無表情で全然笑ってくれないけれど、私の頭を撫でたり褒めたりするときだけは、その口元が僅かに緩むことを私は知っていた。

「……人の顔を見て何ニヤニヤしているんだ」

先生の眉間に皺が寄る。だけどその表情は怒っているわけではなくて、ただの照れ隠しなのだと気付いてしまえば、怖いものなんて何もない。私は先生の手によって乱された髪の毛を手櫛で整えながら、えへへ、と笑みを零した。

「私の家庭教師の先生が、二宮先生でよかったなあって」

私は、二宮先生の大きな手に撫でてもらうのが大好きだ。



***
管理人が超シリアスな話が書きたいときに書き殴って放置していたものです。鳩原の件でずっと罪悪感に押し潰されそうになっていた夢主が「ボーダーを辞める」という選択に思い至ってしまった、あったかもしれないifの話。
19巻の質問コーナーで「機密情報の漏洩を抑えるため、抜ける人の人間性に合わせて記憶封印措置が取られたり取られなかったりします」とあったので、この精神状態の夢主に対してであれば適応されるかなと思って書きたかった部分だけ書きました。

きっと夢主は二宮には何も告げずにボーダーを辞めているし、二宮は影浦隊のメンバーたちから「アイツが辞めたのはおまえのせいだ」と責められていると思います。
夢主の気持ちを分かってあげられなかったことへの後悔と、それでもやっぱりもう一度以前のような関係に戻りたいという願望から再起を図ろうと奮闘する二宮。

続きません。