横暴×天然



「おまえはおれの言うことちゃんと聞かねえから、お仕置きだな」と言って、ほとんど無理やり家に連行されたのが、昨日。
黙っていたら、知らぬ間に服が剥ぎ取られていて、気付いたら、ベッドのうえで犯されていた。

あれは、いったい何だったんだろう。



(痛い……)

腰と、あと、お尻。
強引に挿入されて、痛くて「やめて」と言ったら、「黙ってろ」と怖い顔をして言われた。おれはあの顔が、大の苦手だった。
痛みでちゃんと椅子に座れなかった。半分腰を浮かしたように座っていたら、余計に腰が痛くなった。何でこんな目に遭っているんだろう。

泉本は、いつもおれのことを怖い顔でみてくる。昨日も昼飯買ってこいとパシられた。買いに行ったら頼まれていたパンがなくて、「売り切れなんだって」と恐々伝えたら「おまえがトロいからだろうが」と鬼のような形相で言われた。代わりにおれの大好物のパンを差し出したら、「そんな甘そうなやついるか」と捨てられた。
そして、その放課後。
泉本の家に拉致されて、強姦された。

おれは友達がいないから、泉本しかしゃべる相手がいなかった。しゃべるというよりは、いつもただ脅されているだけだったけど。
いつもぼーっとしていて、動かないおれを、不良グループのボスである泉本はいじめのターゲットに決めたようだった。いまのクラスになってから、ほとんど毎日のように泉本から何かを強制されていた。おれも「嫌だ」と抵抗すればいいのに、なぜかしなかった。それは単に逆らうのが怖いからなのか、ただ面倒なだけなのか。自分でもよくわからない。

「おい沢田」
今日もまたいつものごとく、泉本がおれの席までやってきた。
ちらっと見上げてその顔を確認したら、やっぱり怖かった。
(チンピラ……いや、ヤクザの組長かなあ…怖いよー)
「っ!」
どうでもいいことを考えていたら、がんっと、突然机の足を蹴られてびっくりした。
「な、」
「ぼーっとしてんじゃねえよ、この間抜け。さっさと昼飯買ってこい」
そうだ。いまはもう昼休み。
身体の痛みと格闘していたせいで、いまが何限目で、何時なのか把握していなかった。地獄の底から聞こえてきそうな低音ボイスで泉本が、おれに命令を下す。慌てて立ち上がった。
「うん、…っ」
いきなり立ち上がったせいで、腰に鋭い痛みが走った。思わず顔をしかめたら、また泉本に睨まれていた。
「……」
「あ、あれ、財布どこやったかな……」
見ないふりをして、鞄のなかをごそごそと探す。いらないものばかり入っているのに、肝心の財布が見つからない。お金がなかったら買いに行けない。
「あれ、おかしいな、……」
泉本から睨まれるなか、必死で財布を探していた。ほかのクラスメイトがざわざわと、おれたちの様子を盗み見していたみたいだが、おれは気づいていなかった。
朝ちゃんと入れたはずなのに。鞄をひっくり返しても財布は出てこなかった。
「あ、あの、いずも……」
「もういい。おまえ今日も放課後おれん家な」
見当たらないんだけどどうしよう、と言おうとしたら、先に泉本がしゃべり出してしまった。
「……」
放課後?今日も?
泉本の家……何で?
自分の言いたいことだけ言って泉本はその場からいなくなった。何も確認できなかった。



泉本の家はなぜか誰もいない。
一人暮らしみたいな雰囲気で、家具も物も少ない。ベッドとテレビと、タンスぐらい。おれはそのベッドのうえにまた、転がされていた。
「……あの…」
「しゃべんな黙ってろ」
「……」
おれの意思やら、気分やらは何もかも無視されて、また泉本がおれの制服に手をかけた。昨日とまったく同じ状況。
「…あ、!」
びりっと無残な音を立てて、シャツが破かれた。どうしよう。もうこれ一着しかないのに。明日から何を着て登校すればいいんだろう。そんな見当違いのことを心配していた。
「い、泉本…?」
あっという間に全裸にされて、両足を開かれていた。泉本が何も言わないまま、自分のベルトを外して、ズボンの前だけを開けた。おれは、何も着ていないのに、泉本は上も下もちゃんと身につけたままだった。
「…っ」
また、そこに性器を押し付けられる。
昨日もものすごく痛くて、終わったあとはまともに歩けなかった。なのに、さっさと帰れ邪魔だ馬鹿と、泉本が言うので何とか無理やり身体を起こして帰った。
それを、またいまされそうになっている。あんな痛いの、もういやだ。
「泉本…、ねえ、い、いやだ、おれ、まだ痛いから、やめて」
恐る恐る拒否したら、泉本が怖い顔をした。
(う、怒ってる……)
「だから黙ってろって言ってんだろ、」
何回言わせんだ、とキレた泉本に、頬を叩かれた。
「……っ」
痛い。じんじんする。
ビンタなんて、初めてされた。
さすがに、怖くなってきた。
いやさっきからずっと怖いけど、もっと。
「っ、う、あ…っ!」
お願いだからやめて、ともう一回言ってみようと思ったら、もうすでに遅かった。泉本は大きい凶器を、おれの狭い場所に突き入れるべく腰を動かしていた。
「…っ、力入れてんじゃねえよ」
全部入んねえだろ、と眉間に皺を寄せて怒ってくる。べつにわざと力なんて、入れてない。おれは何もしていない。泉本が勝手にしてるだけなのに。
「う、う…っ、あ」
無理やり押し広げるみたいにして、泉本の先端がおれのなかに入ってこようとする。
何で、こんなこと、されてるんだろう。痛みで頭がぼうっとする。やめてほしいけど、抵抗したらキレられる。
「…っ、うぅ…い、いた…っい…」
がくがくと、足が震えだす。無意識で、身体に力が入っていた。おれの穴はまるで、泉本の侵入を頑なに拒むように、ぎゅっと締まった。
「てめえ、」
泉本が、ちっ、と舌打ちをする。またほっぺたをぶん殴られた。
「っ、……っ、う、」
「沢田のくせに抵抗してんじゃねえよ、」
ヤリ殺すぞ、と物騒すぎる声がした。

「……」
どうしよう、おれ殺される。
まだ17年しか生きてないのに、こんな、怖いやつに襲われながら、男のくせに男に犯されながら殺されるなんて。なんて情けなくて虚しい人生なんだ。いやだ。

「う、っ、うぅ…、」
痛い、痛いよう、とうるさく泣いてみた。どうせ、殺されるなら最期に悪あがきして全力で抵抗しようと思う。
「うぅ、うわぁあっ、ひ、うぅう、こわい、こわいよおっ、いやだあっいたいっこわいーっ」
「……」
じたばたと暴れてみる。
泉本なんか嫌いだ、と言ったところで身体がふっと軽くなった。
「う、っ……?」
「……っせえな」
「?」
よく聞き取れなかった。
「ぎゃあぎゃあうっせえ!てめえは黙って犯されてりゃいいんだよ!」
「っひ、」
鼓膜が割れそうなボリュームの声で怒鳴られて、思わず肩が竦む。いったん離れてくれたから「ああさすがに泉本も懲りたのかなあ」と勝手に安心していた。おれの考えは甘かった。
「さっさと足開けこのバカ!」
「や、やだっ…!」
足首を持たれて、うまく抵抗できなくなってしまった。
「いやだっ!離して、っ離せ!」
「っ、」
泉本にこんな口を聞くのは、いじめられてから初めてのことだった。
いつもおれは黙っていた。だけど、こんなことはもうしたくない。おれにだって拒否権はあるはずだ。
「黙れっつってんだろっ」
「っ!う、や、やだあっ!」
ばしんっと力任せに頬をぶたれて、口のなかまで痛みが走った。それでも必死で抵抗した。そしたら泉本がキレて、おれを殴る。またおれが抵抗する。その繰り返しが延々と続いた。

「…、……」
「はあ、……てめえ…」

全裸のまま、数十分以上暴れ回っていた。
暴れて叫ぶたびに泉本はおれを殴った。さすがに、鬼の泉本も息が上がっている。
おれはというと、あちこち殴られすぎたのと、暴れ疲れたせいで、ぐったりと力もなく横たわっていた。
「……、」
(……帰りたい)
疲れた。とてつもなく。
何でこんなことになったんだろう。暴れても叫んでも許してくれない。泉本は本当に鬼畜なやつだ。
まだ抵抗したかったけど、もう手足を動かせるだけの体力はいくらも残っていなかった。頬だけじゃなくて、お腹やら、上半身やらいたるところを殴られて息をすると痛みが全身に走る。殴り合いのケンカなんてしたことがないから、どう殴り返せばいいのかわからなくて、ひたすらじたばたともがくしかできなかった。泉本は何の手加減もなく、おれを殴った。
そういえば、さっき、殺すって言ってた。もしかしたらおれはこのままもっと殴られて、全身打撲で死ぬのかもしれない。

「……やっと大人しくなった」
おれの上にのしかかったまま泉本が呟く。また、泉本の手がおれの身体に伸びてきたのがわかった。わかったけど、もう何もできなかった。声がでない。身体が動かない。
もうやめてほしい。
痛いのも怖いのもきらい。
パシられるのも、毎日机を蹴られて驚かされるのも。教室で足を引っ掛けられてコケさせられるのも、全部。
全部きらい。泉本がきらい。

「っ」
肩をぐっと掴まれて、泉本の方へ身体が倒された。

「…っ、……」
(う、う……こわい、こわいよ…)

さっきはあんなに大声でいっぱい叫べたのに、本当に声がでなくなっていた。代わりに、目から大量の水が溢れてきた。
「…っ、……っ」
「……」
ボロボロにされた身体が痛い。
帰りたい。早くここから出ていきたい。こんな怖いところ、もういたくない。だけど、動けないし、目の前には鬼がいるし、逃げられない。
「沢田」
「っ、っ……」
怖い顔がどんどん近づいてくる。
何をされるのか、予想がつかなくて余計怖くなってさらに涙が出た。
「っ、」
目をきつく瞑ってその恐怖に耐えていたら、唇に何かあたたかいものが触れた。
「……?」
(な、なに……)
あたたかくて、やわらかい感触がする。これはキスだ、と気付いた瞬間にその感触が消えた。
「……」
「……」
涙でにじむ視界のさきには泉本の顔。
でも、その表情はいつもと違ってみえた。

「おれのもんになれよ、沢田」

そしたら今日は解放してやる。

有無を言わさない口調に、おれは頷くしかなかった。


何も言わず動けなくなったおれを、泉本が起こすと、服を着せられた。
破かれたシャツではなくて、泉本のものを着せられている。サイズが合わなくて、袖丈が余っていた。ボタンまできっちりと止められる。さっきまでのあの暴力はいったい何だったのか、わからなくなった。
とにかく帰ろう。そう思って、痛む身体に鞭打って立ち上がった。泉本がおれをみて何か言っていたけど、聞こえないふりをして家を出た。
外に出た瞬間、止まっていたはずの涙がまた流れてきた。

「……っ」

今日はたぶん、いままでで一番怖い目に遭った日だ。



次の日は学校を休みたかった。
だけど、よく考えたら試験一週間前だった。ただでさえ、おれは泉本のいうようにバカで成績が思わしくない。こんな時期に休んだりしたら、大変なことになりそうだ。とりあえず登校することにした。
「それ、どうしたんだ?」
朝、用事があって職員室に行ったら、担任から驚いた顔をされた。顔の痣のことを言っているのだろう。
「階段で転んで、けがしました」
そうごまかしたら、担任は気をつけろよ、とだけ言った。

教室にはまた、泉本がいる。
一番後ろの席で、不良仲間と騒いでいる。いつもなら、平気なのに、耐えられたのに、今日は泉本のいる教室のなかが怖くて仕方なかった。すこし声が聞こえただけで震え上がりそうになった。おれの席のそばを通られたら、走って逃げたいぐらい怖くなった。授業中は、なぜか後ろからずっと視線を感じて、泣きそうになった。
そして、昼休みになった。

「……」
(食堂、行こうかな…)
いまならまだ間に合うかもしれない。すぐに教室を出れば、きっと捕まったりしない。
「…っ……」
そう思ってすぐ、後ろから人の近づく気配がして、おれはまた動けなくなっていた。

「おい」

来た。やっぱり今日も、きた。
返事もできずにじっと座ったまま俯いていた。
「……今日は金持ってきてんだろうな」
いつもと変わらない口調に、態度。
「うん、あるよ、買ってくる」なんて、いつもは無理してでも返したりできたのに。そこにいる存在に恐怖しか感じなくて、口を開くこともできなかった。
(また殴られたらどうしよう)
ふと昨日のことを思い出す。
昨日は、いまポケットに突っ込まれているあの手で散々乱暴された。いまも息をすると上半身が痛む。顔もひりひりする。返事をせずに黙っているおれを、いまもきっといらいらした表情で睨んでいるんだろう。想像したら、ものすごく怖くなった。

「…っ、っ……」
そして、気づいたら泣いていた。
机の上に小さな水たまりができる。
学校でいじめられて泣くなんて、うまれて初めてだった。
「っおい、……」
「…うっ、う、……」
漏れる嗚咽が抑え切れずに、みっともなく教室で号泣していた。両手で拭っても次から次へと涙が出てくる。
ほかのクラスメイトがひそひそと噂し始める。ちっ、と頭上から舌打ちが聞こえる。怒ってる。また泉本がいらいらしてる。怖い。どうしよう。
さらに涙が止まらなくなっていた。
「ちょっと来いっ」
「う、…っ、!」
無理やり椅子から引っ張り上げられた。そのまま泉本と教室を出る。早足で歩く泉本に連れまわされて、足がもつれて何度も転びそうになった。
どこに向かっているんだろう。
またいまから何をされるんだろう。
怖くてずっと泣いていた。



別館の空き教室は埃っぽくて、昼なのに薄暗かった。
椅子に座らされて、泉本もその前の席に腰掛けた。いまだにおれは泣いたままだった。
「…、う、…っ、……」
「……」
泉本は黙っていて、さっきからずっとおれのことを見ていた。
何かをしてくるわけでも、言うわけでもなく、じっとそこに座って、見ているだけ。

「……身体、痛てえのか」
しばらく経ってから泉本がおれに聞いてきた。
「……」
小さく頷く。
本当にどこもかしこも痛かった。
「沢田」
「っ!」
急に名前を呼ばれたかと思うと、泉本の腕がおれの方に伸びてきた。
怖くなって、身を反らせたら、また、泉本が舌打ちをした。伸ばされた腕が戻っていく。
「ったく…、昨日はあんな暴れてたくせに……」
ビビりすぎなんだよ、と溜息まじりの声がした。
おれは、泉本が何をしたいのかさっぱりわからなかった。昨日は、いっぱい殴られはしたけど、強姦はあれ以上されずに済んだ。急に「おれのもんになれ」と言われて、考えなしに返事をしてしまった。これからもっとひどい扱いを受けるのかもしれないと家に帰ってから思って、不安感で昨夜はほとんど眠れなかった。だけど、いつもなら、登校した途端から泉本のおれへのいじめは始まるのに、今日はそれがなかった。昼休みに声をかけられて、やっぱりいつもと変わらないと思ったけど、今日はまだパシられてはいない。教室のなかであんなに泣いてしまったから、あの場ですぐに「泣くなうぜえ!」と、また机を蹴られたりするとばかり思っていた。だけど、泉本はおれの泣き顔をみて、ほんの少しだけ焦ったような雰囲気で、教室からここまで連れ出した。
「情けねえ顔すんな」
「…っ」
泉本が、制服の袖でおれの顔を乱暴に拭いてくる。ごしごしと擦られて、昨日叩かれたところがすこしだけ痛かった。

「……」
涙は徐々に収まりつつあった。
泣きすぎて、いまだにうまく呼吸ができない。ちらりと泉本の顔をうかがいみる。相変わらず眉間に皺ができている。だけど、いつもみたいに凶悪な顔ではなかった。いままでも昨日も、さっきまでだって、あんなに怖かったのに、いまの泉本からは怖いオーラが出ていない。怖くない泉本。すごく、変な感じがする。

「……い、泉本…」
今日初めて口を開いた。すこし声が枯れていた。名前を呼んだら、泉本が「なんだよ?」と不機嫌そうに答えた。やっぱり、あんまり怖くなかった。
「今日も、財布、わすれた……」
途切れ途切れに言ったら、目の前の顔が一瞬あっけにとられたようになって、それからまた不機嫌な表情に戻った。
「……じゃあ、今日はおれが奢ってやる」
この間抜け、と頭を小突かれた。


泉本が買ってきてくれたメロンパンを、一口かじる。「美味いか」と聞いてくるので、「うん」と頷いた。
だれかと一緒に食べる昼食は、教室でひとりで食べるよりもずっと、おいしいかもしれないと、今日初めて知った。
それが、たとえばこんな、鬼みたいなやつとでも。

end




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