他人のものだというだけで、やたらと魅力的にみえるのはなぜだろう。



クラスの友人の佐原に、最近付き合いはじめたやつがいるんだと、急に告げられた。
「へえ、そうなんだ。どんな子?かわいい?」
「まあ、かわいいな」
「今度会わしてよ」

興味本位で言ってみたら、佐原は気まずそうな顔をしておれに言った。

「男なんだ、相手」と。



「……、へ、へえ…そう」

世の中にはそういう人もいると、わかってはいたが、まさかこんな身近に存在するとは思いもよらなかった。
普段、何事にも反応の薄いおれでさえ、さすがに驚いてしばし固まってしまった。
「悪い、やっぱ引くよな。男同士とか……」
「いや……まあ、いいんじゃない?べつに。好きならそれで」
これはべつに適当な返しでもなんでもなくて、おれの本心だった。
おれはいままで男に恋したことは一度もない。けど、好きになる相手に性別が関係あるかないかと聞かれれば、どっちでもよかった。佐原は安心したような口調で「お前に言ってよかったよ」と言った。

なんでも、中学のころからの付き合いで、やっと恋人同士になれたらしい。
学校は違うのかと思ったら、ここの、べつのクラスの生徒だという。
どんな相手だろうと、すこしみてみたくなった。


「ほら、友紀、はじめましては?」
「……は、はじめまして…」

もごもごと話すやつ。佐原のうしろに隠れて身体が半分も見えてなかった。
羽多野友紀。佐原の友達兼、恋人。
「はじめまして〜。佐原の友達の、宮藤です。よろしくね?」
「……」
お近づきのしるしに握手をしようと、片手を出したけど、その手が握られることはなかった。ずっと佐原の背中にしがみついたまま離れない。

「ごめんな、こいつめっちゃ人見知りするんだよ」
「いやいいよ。なんか面白いし」
「っ、」

おれが佐原のうしろに回りこんで、覗くとびくっと大げさに肩を揺らす。
小声で「隼人、早く帰りたい…」と佐原に向かってつぶやく。佐原が慌てて宥めていた。
「……」
同じ男のわりには華奢で小さい。
それに、なんかちょっと、顔とかかわいい……かもしれない。


(これが、佐原の恋人、ねえ……)


一目みただけで、おれは、なぜかおかしな感情を抱いてしまった。




佐原にしか心を開いていないらしい、例のあの子をもう少し知りたくなった。
チャンス到来とばかりに、今日は佐原が休み。ようやくあの子とふたりで話してみることができそうだ。

「佐原が休みとか珍しいよなあ。風邪だって?」
「……」
「今日はお見舞いとか行くの?」
「……」
「……」

教室にひとりでいるところを誘い出した。しぶしぶといった感じでついてきたはいいが、おれが話しをふっても一向に無反応。ずっとうつむいたままでおれの顔を見ようともしない。
「友紀くんはほんとに人見知りなんだねえ」
「…っ、」
何気に言ったら、ようやく顔があげられた。

「……ゆ、ゆきって呼ぶの、隼人だけ……」
目が合ったのはほんの一瞬。
またすぐに下を向いたかと思うとぼそぼそとつぶやいた。
「……」
つまり、名前を呼んでいいのは恋人の佐原だけだと言いたいわけか。
たいして親しくもないおれは名前を呼ぶ許可も得られないらしい。

「そんなつめたいこと言わないでよ。おれもあいつの友達なんだからさ。仲良くしようよ、ね?」
「…っ!」
強引に肩を組んだら、自然と顔が近くなる。目の前で焦ったように瞳をゆらゆらさせる。かき消されそうに小さくて震えた声で「離して」と零した。

「……」
(あーやばい、なんかこれはやばい)

心のなかに渦巻くあやしい欲望。
嗜虐心そそられるってまさにこれだ。

いじめたい。これを。
いじめて、泣かせて、「ゆるして」とか「ごめんなさい」とか言わせたい。
何も知らなさそうなこの細い身体を、ひどく穢してやりたいとか、思う。
これは友達のものなのに。
おれがこんなことを考えるなんて間違ってる。

だけど、ほんとうのおれを知らずにこんな美味しそうな餌紹介したりした、あいつが悪い。
そう。佐原がおれのことを信用しすぎたせいだ。

(ああごめんな、佐原。ちょっとだけイタズラしちゃう)

「あ、そうだ、友紀くん。今日一緒に佐原のお見舞い行こうか」

きっと佐原も喜ぶよ、と心にもないことを耳元で囁く。
慣れない人間に拘束されて、身体を小刻みに震わせている。
こいつはもしかしたら最初から、おれの本性に気がついていたのかもしれない。



「着いたよ」
「…っ、…」


見舞いに行くなんて単なる口実だ。

見覚えのないマンションの前に連れてこられて、羽多野は明らかに顔色を変えた。ぼうっとしてるやつかと思ったけど、案外勘が鋭いようだ。
逃げられるまえに腕を掴んで、部屋に連れ込む。焦りは、徐々に怯えに変わる。たいした抵抗もできずにいる羽多野を、さっそく床に押し倒す。制服を少々乱暴に脱がすと、ボタンが取れて転がる音がした。

「……、っ、か、帰る…っ」

起こしかけた上体を再度床に縫いつける。もういまさら何を言っても遅い。
羽多野が怯えた眼差しでおれを見上げる。

「だからさ、そんなつれないことばっか言わないでさあ。せっかく遊びに来たんだし……」
「…や、っ!」
「友紀くんもちょっと楽しんでから帰ればいいじゃん」

白くてきめ細かい肌を撫で回しながら、おれはいつまでも笑顔だった。
こんなに楽しいことってなかなかない。

「い、っ、いやだ…っやめ、っ!」

力も体格も何もかもおれには敵わないくせに、弱々しくもがいた。
引っ掻くように乳首に触れると、びくりと身体を震わせる。

「あはは、友紀くん乳首弱いの?」
「……っ」
「なんかもうたってるもんねえ。まだちょっとしか触ってないのに」

涙目になっておれから顔を背ける。
「隼人」とその唇が動いて、たまらなくなる。

「佐原、呼んでやろうか」
「!」
本当に反応がよくて最高だ。
震えておれを見上げるその目なんて、もうやばい。それだけで何回かイけそうなほど。
おれの言葉に気を取られているすきに、ズボンと下着を一気に脱がす。全裸にされて、羽多野が顔を真っ赤に染めた。

「……や、やだ、も、…やめて、…っは、はやと、っう、…たすけて…っ」

ここにはいない愛する恋人に助けを求める姿が、かわいくて気分はますます高揚する。無理やりに両脚を開かせると、本格的に泣きじゃくり始めた。

「う、っうぅ…っ、や、やだ…ぅ、っ」

「はやと、はやと」とそれしか言えなくなったみたいに呼び続ける。

「……なあ、友紀くん」
「…っう、……」

両脚を抱えたままで羽多野を呼ぶ。
濡れた目におれが映る。

「いま、佐原がここに来たら、友紀くんのこと、嫌いになっちゃうかもね」

首筋に舌を這わせながら、さらに追いつめる。何も言えずに顔色を失くす羽多野。

「こんなとこ見られたら、おれとHしてるってバレちゃうしなあ」
「……」
「どうする?佐原に来てもらう?」

「電話しようか」と、羽多野の頭の上に転がっていた携帯電話に手を伸ばす。

「あ、…っ…」

羽多野は勘が鋭いうえに、頭の回転も早いようだ。
震える手でおれの袖を掴むとこう言った。

「言わないで……なんでも、するから」

ぼろぼろと大きな雫を目から零しながら、やけにはっきりとした口調でおれに縋ってみせた。



「っ、う、あ…っ、ぁ、うぅ…」
「友紀くん、気持ちいい?」
「……っ、ぅ、う…」
「ほら、ちゃんと言わなきゃ、佐原呼んじゃうよ?」
「…っ、や、…っ、き、…きもち、い…」

どれだけ泣こうが嫌がろうが、身体は感情を置き去りにして、この行為を受け入れ始めている。
わざと時間をかけて丁寧に慣らしてから、挿入してやった。愛しの恋人ではない指で、手で、性器で感じさせてやる。
いま、だれと繋がって、だれから快感をもたらされているのか。
気が遠くなるほどに思い知ればいい。

「はは、友紀くんすっかり淫乱になったね」
「……っ」
「いまだれに犯されてるかわかってる?」

身体を揺さぶると、結合部からぐちゅぐちゅといやらしく濡れた音が響く。
漏れる嗚咽と喘ぎのあいだで、「宮藤くん、もっと」とねだる声。
それを聞いておれはまた「淫乱」と罵った。焦りも怯えも恐怖も、もう何も映さなくなった瞳。光が消えたふたつの瞳には、いま、たしかにおれだけが映されている。


予感がする。
これはもはや、確信に近い。


もうすぐ、友紀は、おれのものになる。

end



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