とりあえずキス。



瀬戸を監禁すべく、さまざまな道具を買い込み、満足気に帰宅した。
静まり返った部屋。寝室を覗いてみると、全裸の瀬戸が転がっている。

(暴れてなくてよかったあ)

部屋の様子は、おれが出かける前とまったく同じ状態だった。あの拘束を解くほどの体力は残されてなかったらしい。昨夜犯したあとと変わらない体勢で、横たわる瀬戸。
また起こして遊んでやってもよかったが、すこしは休息も必要かと気遣ってそっとしておくことにした。


昼飯なのか、夕飯なのかわからない食事を摂る。一人分の自炊なんて、面倒なことこの上ないので、めったにしない。
今日も今日とて、コンビニ弁当。たいして美味くも不味くもない飯を、機械的に口へと運びながら考えるのは、これからの素敵で残酷な計画。

あの日、瀬戸を見つけなかったら、おれの人生は本気でつまらないままだった。

高校を卒業してからというもの、職を転々とし、現在はフリーターという、なんとも曖昧な身分。
話題性に満ちた瀬戸ほどではなかったが、おれもそこそこに不真面目な生徒だった(というか、真面目なやつのほうが少ない学校だった)。
当時、つるんでいた仲間と夜な夜な遊び呆けて、勉強なんてした記憶があまりない。あんなのでよく卒業できたなあと思う。

(そういえば、あいつら元気にしてるかなあ)

皆、環境が変われば疎遠になるもの。
久々に連絡を取ってみるのも、悪くない気がした。なぜなら、いま、おれはとても価値ある存在を手にしたから。
早く見せびらかしてやりたいな。どうせ楽しむのなら、大勢のほうがいい。

「……、…ん?」

お腹が満たされたあとは、悪いことばかり考えてひとりでにやけていた。寝室から物音がして、おれの妄想は一時中断される。

「!」

部屋を覗くと、ベッドの上に座り込んだ瀬戸と目が合った。化け物でも見つけたみたいな目でおれを見る。
真正面から向き合うことで、改めて瀬戸の魅力を理解する。意志が強そうで、決して他人を受け入れない。自分の思い通りにならない人間は威嚇する。まるで、野良猫のような。こういうやつほど、堕とすと清々しい。

「やっと起きた。ずっと寝てるから暇でしょうがなかったよ」
「っ、」

白々しい笑顔を貼り付けて、瀬戸に近づく。安物のベッドは大人二人分の、重みでうるさく軋む。瀬戸が不自由な身体で、おれとの距離を作ろうともがく。
まだ逃げる気なのか。もうなにしたって無駄なのに。狭い空間の上で、逃げ場などない。どれだけ離れようとしても、すぐに壁にぶち当たる。ここは、おれの城だ。助けなんて永遠にこない。
なんて可哀想な瀬戸。ほんとうに可哀想で、かわいい。
口を覆っていたテープを少々荒っぽく、引き剥がす。薄い皮膚が剥がされる感覚に、顔を歪ませた。


「っ、来るなっ……!」
「はは、怯えてんの?かわいい」
「……、絶対、許さねえ…っ」
「そんな睨まないでよ。怖いなあ」

こんなに追い込まれてもまだ、瀬戸は自分の身分を理解できていないようだ。
頬の痣をできるかぎりやさしく撫でてやろうとした。おれの指先が触れた瞬間、びくっと大袈裟なまでの反応をみせる。

「おれが怖い?」
「……っ」
「ねえ、どうなの?」
「……、てめえ…なにが目的なんだよ」

答えになっていない質問が返ってきた。
目的、か。
そんなもの、あって、ないようなものだ。

「恨みでもあんなら、こんな回りくどいことしてねえで、さっさと殺せばいいだろ」

おれから顔を背けて、瀬戸が言った。
ひどく落ち着いた気分で、目の前にある細い身体を倒す。
おれの下でうるさく喚き始める瀬戸。その口をまた覆ってしまいたくなって、今度は唇で塞いでやった。

「んっ!ん、っ!!」

おれを押しのけようにも、手が使えない。自慢の蹴りもお見舞いできない。
ただ、頭を揺らして情けなく、くぐもった声をあげるしかない。口の中でも、逃げようとする瀬戸を捕まえたくて、強引に舌を絡め取る。くちゅ、と二人のあいだからいやらしい水音。
舌噛まれたら死ぬかもなあ、と不安に思ってみたりしたが、いまのところは無事だ。もうそんなことを考える余裕もないのかもしれない。さっきまで、偉そうな口ばかり叩いてたくせに。

「…ん、んんっ、んぅ、…っう、」

妙にしおらしい声を出すようになった。
身体も、暴れるというよりは打ち震えているというような感じがする。
そうか。最初からこうしていればよかったのか。どうやら瀬戸は荒々しいキスがお好みのようだ。

「…んん、っ、ん、は、あっ、は…」

瀬戸の口の中をじっくりと堪能して、最後に舌を吸い上げてやる。
光る糸を引きながら、唇が離れる。瀬戸が、フェラをさせたときのように呼吸を乱す。
数秒ほど、悩ましい表情をしていた瀬戸だったが、またすぐに眉間に皺を寄せて、おれを睨みつける。

「恨みなんてないよ。だっておれずっと瀬戸のこと、好きだったし」
「っ、」
「こんなにかわいい反応ばっかりしてくれるんなら、もっと早くおれのものにしとけばよかった……」

ほんとうに後悔してる。
でも、いまだからこそこうやって近づけた。昔のおれならきっと、見てるだけで満足してた。
触れてしまえば、あとはもう、ブレーキの効かない車のように走り続けるだけだ。

宝物に触れるように瀬戸を抱きしめる。おとなしくなって、もうなにも言わない。おれは思い出したように、瀬戸の手足を縛りつけていたテープを全部剥がした。力任せに巻いたせいで、痕がついている。
「ちょっと待ってて」と声をかけてベッドから降り、さきほど購入したばかりの監禁グッズを瀬戸の前で広げる。
手錠に縄、ペット用の首輪、ぶっといバイブに、ローター。瀬戸がちゃんと気持ち良くなれるように、ぬるぬるのローションも忘れずに買ってきた。
「これでいっぱい遊ぼうね」と笑ったら、瀬戸は顔色をなくして固まった。


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