アンダーグラウンド通行証



私、よくやったよね?


自分の無力さを心底憎んだあの日から数年、がむしゃらに修行して正規部隊の上忍から医療部隊へ異動した。典型的な戦忍だった私が戦闘とは全く別の知識やスキルを身に付けることは生半可なことじゃなかったけど、あの日の後悔を二度と繰り返さない為だと思えば辛い修行にも耐えられた。

そのかいあってか、私は同じ医療忍者として憧れていた五代目火影様の直属の部下になれたし、忍五大国の連合軍だなんて忍界史上初の部隊で、シズネさんの下で医療班の一つを任せてもらえた。


嬉しかった、腕を認めてもらえて。誰も怪我をしないでくれと祈る反面、運ばれてきた仲間達は全員私が治してやるって思った。尽きぬ怪我人を治し、時には看取り、そんな目まぐるしい戦場で油断していたつもりはなかった。

だけど、



「お前も医療上忍だな」



手当てをして欲しいとテントに入ってきた同胞のはずの日向ネジが、突然白いグルグルの化け物に姿を変えて…



ザクリ、



胸に刺さったクナイと溢れる赤い液体。迫りくる寒さと眠気に抗う術を、私は持っていなかった。





「イトさん!?イトさん…!!」




後輩のサクラが自分を呼ぶ声がやけに遠くに聞こえた。そっか、私死ぬんだなぁ。死ぬ時はもっと劇的だと思ってた。

医療忍者として多くの仲間達を看取ってきた。皆誰かに自分の意志を託して、誇らしげに息を引き取った。私もそうなりたいと、最後の最後まで誰かを治し続けて、そして力尽きるように死にたいと、そう思っていた。忍は生き様ではなく死に様。私が二十六年間生きてきた証を、どうにかして残したい。


だけど今、こんなにもあっさりと自分の命が散っていく。


悔しい
医療忍者は最後まで死んじゃいけないのに

怖い
どんどん感覚がなくなっていく自分の身体が

悲しい
まだ誰にも自分の言葉を遺してないのに

寂しい
私は誰かの記憶に残るのだろうか




カカシさん、



慰霊碑の前で言葉を交わしたあの日を私は今でも覚えています。そして、初めて担当した私の患者さん。あなたが“ありがとう”と私の頭に手を置いてくれたあの時から、私はあなたに憧れていました。貴方の手が暖かくて、私は自分の仕事に誇りが持てました。好きだなんて、そんことはおこがましくて思えなかったけど…私も一人の忍として、あなたを尊敬していました。また私の手であなたの怪我を治したかったです。


ああ、もう、ほんとうに終わりなんだなぁ


願っても許されるなら、もう一度自分の手で誰かの命を救いたかった。




感覚が薄れていく。視界が暗くなる。手も足もかじかんで、吐く息が白くて、本当に本当に寒い。さむ………え?





「さ、さむ…え、?えっ?さ、さむっ…!!」



確実に感じる先程とはまったく違う類の寒さに閉じていた目を恐る恐る開けてみる。広がっていたのは、一面の銀世界でした。



「な、なんで!?寒い!

は、はっくしょい!!!」

/
[back to list]