リトルビターの依存心


キーンコーンカーンコーン

典型的な鐘の音のコンマ数秒後に聞こえてきたドドドドドという地響きに、クラス中の視線が廊下へ続く扉へと集中した。


「なまえ!!大変大変、一大事!!」
「あー、カルマ君、まだ号令前なんだが」
「ごめんなさい先生!なまえ!早く来て!」
「うん、きみ先生の話聞いてないね」


バァン!と扉が壊れんばかりの勢いで教室に侵入してきたのはもはやこのクラスでも見慣れた顔で、<なんだまたか>という視線が今度は教室の中へと集まった。その視線の対象者は呆れたように手で顔を覆い、数学の担当教師にペコリと頭を下げて侵入者と共に教室を出た。教師も諦めたのかヒラヒラ手を振って追い出した。なにしろこの光景は入学当初から続く名物の一つ。もはや誰も気にしていないし諦めている。


「ほら、なまえはやくはやく」
「もう、ひっぱらないでよアルマったら」


笑顔が無邪気な少年、アルマ=カルマ。呆れつつも笑顔の少女、みょうじなまえ。ここにあともう一人とある少年を加えれば、学校名物の幼なじみ三人組の完成である。




*****



アルマのいう大事件とは、私達にとって本当に大事件だった。いや、下手をしたら学校中の生徒にとっても大事件かもしれない。なんたって、あの神田ユウに告白する女子生徒がついに現れたのだから!


「顔良しスタイル良し、ただしぶっきらぼうで冷血漢で眉間にしわ常備、舌打ち標準装備。憧れる女子はいても話しかける勇気を持つのにさえめちゃめちゃ苦労する、あの、神田ユウに!ついに!あまつさえ呼び出しをかける猛者(女子)が現れたぁ!!!」

「アルマ、どうどう」


興奮気味に頬を蒸気させるアルマの肩を叩いてどうにか宥める。この子はユウのことを盛大に罵ってることに気づいているのか。だけどその内容には私も全面同意せざるを得ない。


呼び出し場所はベタに校舎裏。どこからか情報を掴んできたアルマは、二人が来る前にポジションを陣取るべく私を引っ張ってきたという次第だ。覗き見なんて趣味が悪いが、気にならないといったら嘘になる。



「…でも、告白の成功失敗は別に私達に関係なくない?」

「え?なまえそれ本気で言ってる?」


さっきまで興奮していたアルマは突然ギュッと眉間にしわを寄せた。あ、この顔懐かしいな。小さい頃にユウと喧嘩してはこの顔で私のところに愚痴りに来てたっけ。


「もしユウがその子と付き合っちゃったらどうするの!?」

「…はい?」

「もう一緒にお昼食べたり登下校したり遊んだり、そういうの全部できなくなっちゃうかもしれないんだよ?」


ギュッと寄ったしわの正体はこれだった。ようは、アルマは寂しいのだ。

親に捨てられ、物心ついた時には既に孤児院にいた。そこには沢山の子がいたけど同い年は私達三人だけで、ずっと一緒にいた。それがここにきて、ユウが離れていってしまうかもしれない事態になった。アルマが心配してしまうのも無理もないことかもしれない。

だけど、


「…私はあんまり心配してないわ」


きょとんとするアルマの頭を苦笑しながら撫でてやる。


「いつか離れる日は必ず来るとしても、私は今はこの三人でいるのが一番幸せ。アルマもそうでしょ?それって何も、私達の一方通行じゃないと思うのよね」

「…うん」

「ユウが付き合うにしても付き合わないにしても、私達を蔑ろにすることは絶対にないって言い切れる。ま、そんなこと言って私も嫉妬しているんだけどね」


ニッと悪戯っぽく笑えば、僕達って独占欲強いねって、アルマもニッと笑った。



二人でコソコソ話していれば、ついに二人が現れた。お相手は、と見れば…ああ、ユウのクラスと体育が一緒の清楚系ギャルの子ではないか。清楚とギャルという一見相反するジャンルをうまいことバランスを取ってる可愛い子で、確か私のクラスでも人気の子である。ただし、結構裏表の激しい子で、ぶりっ子だ媚売ってるだと女子からは割りと煙たがられている。

…うん、ユウの好みのタイプではなさそう。少しホッとした自分の心の狭さと性格の悪さ。しかし隣のアルマを見ればバッチリ視線が合って、同じ表情をしていることに二人で声を堪えて笑った。



「あの、神田くん、突然呼び出してごめんね」
「…………」


「(無言!無言だよ流石ユウぶれないね!)」
「(はやくもあの子が可哀想になってきたわね)」


「…わ、わたし、ずっと神田くんのことかっこいいなって、見てきたの。彼女とかいないなら、私と付き合ってください…!」
「…………」


「「(あ、これはマズイな)」」


嫌な予感がして、私達はお互いの口をしっかり塞いだ。案の定、ユウは爆弾を落としてきた。



「…………あんた、誰だ」


「「(ブッフォ)」」



うん、塞いどいて良かった。表情を一切変えずに告白をぶったぎったユウに、流石に噴き出してしまう。あの男、想像以上のデリカシーの無さである。



「え、あ、…えっと、体育が一緒で、」
「知らん」


ああ、ついに女の子が泣き出してしまった。ユウを取られる嫉妬をしていた私達だが、この展開になってしまったら流石に女の子が気の毒で、同じ女として僅かばかりにユウへの怒りが沸く。


「(断り方ってもんがあるでしょう。帰ったら説教してやるわ)」
「(これは僕もフォローできないなぁ)」


事の顛末も見届けたし、バレる前にずらかろうと気配を消してその場を後にしようとした。しかし、デリカシー無し男の神田ユウは、またもや特大の爆弾を何の前触れもなく落としてきた。



「あんたが誰だろうが、女なんてアイツ以外いらねえ」
「え?あ、あいつって」


「チッ。決まってんだろうが。なまえ以外に誰がいんだよ」



俺はアイツ以外を隣に置く気は一切無ぇ



チュドーンと起爆した爆弾に私は気配を消すのも忘れてポカンとしているアルマの腕をとり脱兎のごとく逃げ出した。その音で流石にバレたのか、ユウは驚きながら振り向いて、私達の姿を確認した途端に顔を般若へと変えて追ってきた。こんなに赤くなった顔なんて絶対に見られたくない私も全力で廊下を駆ける。

あの子は放置!?というアルマのツッコミを受け流し、こうして私達の鬼ごっこは幕を開けたのだった。




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アーツ様、この度は十万打のリクエスト、誠にありがとうございました!!

凍結後か転生後ということでしたが、凍結後の話は何件か他の方もリクエストしてくださったので、転生後の話を書かせていただきました。

普通に神田の短編みたいになってしまいました。もう少し前世要素入れたかったのですが、力及ばず…。この後二人+アルマがどうなっていくのか、私自信も気になります(笑)いつかこのお話の続きも書けたらいいなとも思っております。その時がくるまで、何卒allegoryをよろしくお願い致します。

この度は本当にありがとうございました!

管理人 みーこ




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