35℃の微熱


世の中には死の原因が至るところに転がっている。しかし今私が死んだとしたら、その死因は一つしかない。

"笑い死に"である




「アーッハッハッハッ!!!」
「これが味噌汁で、」
「ハッハッハッっげっほ、ゲホ、アハ、ハハハハ!」
「煮物やろ、」
「い、痛い、ヒッ、腹筋が!腹が!つる!」
「炊きたてご飯に」
「し、死んじゃう、息できな、アッハッハッ」
「だああああ!!人の好意を涙出るほど笑っとんちゃうぞ!!」
「助けてーー!ハハハハっ…ヒィッ…!……!!」



もはや声すら出せずに畳をバンバン叩くことで笑いを逃がそうとする私を見て、ついに真子がぶちギレた。

ひー、ひー、となんとか息を整えようとするも、真子の姿を目に入れる度に再度笑いが込み上げている。なんで割烹着なんて着てんのアンタ!


今日も一日疲れたなと自分に宛がわれた隊舎部屋に帰れば、真っ先に私を出迎えたのは割烹着を装着しお玉を装備した真子だった。頭が追い付かなくて呆然としていれば、「はよ食べな冷めんで」とくるりと居間へ向かう彼の背中にはデカデカと赤い刺繍が施された「愛」の文字。なにそれなにそれ仮装???トドメとばかりに食卓にならぶ家庭的な料理と真子のどや顔に、ついに私は膝から崩れ落ちた。冒頭に戻る。



すっかり拗ねてしまった真子に、震える声を懸命に堪えながら謝罪する。顔笑っとるけど、と文句を言ってくるが、だったら早急にその割烹着を脱いで欲しい。これがまた絶妙に似合ってるもんだから余計に笑いを誘う。



「…っはー、えっと、それで、突然どうしたの?」
「いいからはよ食え!」
「いただきます」


拗ねてる真子は若干面倒なので、ここは素直に従っておこう。そう思って箸をつければ、予想以上の仕上がりに驚いて真子を見つめてしまう。あ、またどや顔した。


「え、すごい。すごく美味しい」
「せやろ」
「このお味噌汁も出汁がすごくきいてて美味しいよお母さん」
「誰がオカンやねん」


ツッコミつつも満足気な真子。別に彼の機嫌を取るために言ったんじゃない、本当に美味しいんだ。手先が器用なのは知ってたけど料理できたんだ、意外すぎる。


「ほな、食べ終わったら風呂行ってこい」
「え、え、」
「そのあとはマッサージやな。真子くんスペシャルバージョンや」


最近何かとカタカナを使いたがる真子。マッサージってつまり整体のことでしょ。しかし、何故今日に限ってこんなにも尽くしてくれるのだろう。何か企んでるんじゃないだろうかと勘ぐってしまう。



「お客さんうつ伏せになってくださ〜い、マッサージ始めますぅ」
「いやいや誰よ……っ、うー、」
「うわ、なんやこれ肩甲骨ガッチガチやん。リサの言う通りやんけ」
「え、リサ…?…っ……はー、……ん……ふぅっ…」
「……………………」
「んっ……しん、じ……そこ………気持ちぃ…っ……って、あれ?痛い!」


突然バチンと背中を叩かれて「しゅーりょー!!!」と大きな声をあげる彼に怪訝な視線を向ければ、真子はこちらに見向きもせずドスドスと台所に向かってしまった。「これ以上マッサージしとったら俺が堪えられん」って………あー、うん…なんか申し訳ないことをした。そして恥ずかしい。若干火照った顔をパタパタと扇ぎながら、洗い物を始めた真子の背中を見つめる。



「ねえ真子ー」
「あん!?」
「今日どうしたの?嬉しいんだけど、不思議っていうかさ、」
「…リサが、」
「リサが?」


お前が最近、休む暇もないほど任務に駆り出されとって疲れてるみたいだって言うてきてな。女が喜ぶことをコレ見て学習せえって渡してきた雑誌に、まあ色々書いてあったんやけどどれもこれも逆に疲れさせてまうことばっかで…一番はこれかな思ったから…


「灯りのついた暖かい部屋で出迎えられるとか、家事を手伝うとか、そんなら俺でも出来るやろ」



んで、今日定時であがれたから割烹着買って家に来た、と。


背中を向けながら渋々、照れ臭そうに話す真子がたまらなく愛しくなって、思わず背中に抱きついた。ビックリしたように動きを止めた彼に構わずギュウ、と力をこめる。


「ありがと」
「…おん」
「すごく元気出た。真子のおかげ」
「そらぁようござんした」
「出ました照れ隠し」
「お前昔っからそういうとこ空気読まへんよな」
「私も照れ隠しってことにしといて」


はあ、とため息をつきながら、真子のお腹にあった私の手をぎゅっと握った彼の耳は赤い。洗い物をしていたからかその手は冷たかったけど、くっつく背中はとても熱かった。



「…ところでさ、」
「うん?」
「リサって読書家だけど雑誌はエロ本しか読まないじゃん。ってことはさ、」
「………」
「余計に疲れさせることってセッ」
「こるぁ!俺我慢しとんねんぞ!マッサージかてだから途中でやめたんやろが!」
「見たの?」
「は!?」
「リサから渡されたエロ本、他のページ見たのかって」
「……なまえちゃん、キスはええ?」
「ねえってば話そらすな」
「あー、うん、まー、ほら」
「ふーん?」



背中に抱きついた状態で流れるようにバックドロップを決めた私は何も悪くない、はず




───────

ちょぴん様、執筆が遅くなってしまい申し訳ございませんでした!そして、企画へのご参加ありがとうございます!

復帰後に平子と甘くというリクエストでしたが、いかがだったでしょうか。うーん、甘く甘くと思うとどうしても茶化したくなってしまいます。平子さんでそんな話を書くと十中八九そうなります。すみません!でも楽しかったです!割烹着平子さん見たいなあという私の願望も織り込まさせていただきました!

この度は素敵なリクエストありがとうございました!これからもallegoryをよろしくお願い致します!

管理人 みーこ




[Back]