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 路草(サイトイメージ小説)

 壮大な寄り道の顛末。

 昔から、まっすぐ家に帰りなさいというお説教は決まり文句だった。だから、誰しも一度は聞いた事があるだろう。
 最終的に家へ帰りつけるのなら、過程などどうだって良いじゃないか。帰るまでが遠足なら、寧ろ大いに遊びながら帰路を楽しむべきではないのか。
 ――こういった屁理屈を、良い大人であるわたしが捏ねた所で何になろう。叱ってくれる人も、窘める人もないまま、苦笑を寄越されて終わるに違いない。

 ゆえに、負けん気の強いわたしは殊更必死になって言い訳を考え始める。
 ただ、本当に、ビルとビルの隙間の先に、魅惑的な草原が見えたのだ。
 この乾ききった都会において、その解放感はなんと抗い難い誘いだろう!
 わたしが子供の頃は、あちこちに、こんな空き地があった。雑草が好き勝手に伸びた、取るに足らない空間。かけっこをするには狭くて、ヒーローの真似事を演ずるには広すぎる。
 しかし、空き地は子供の立ち入りを何時でも許してくれた。むき出しの膝を草がくすぐる感触、土の匂い。昨日食べた朝食はすぐに言えないが、そんな幼い記憶はつぶさに思い出せた。グレーの路地裏の先には、色鮮やかなグリーンが待っている。先へ、先へ。仕事帰りであるのも忘れて。家で待つ妻の事など頭にはない。
 しかし――この小道はこんなにも長かったのか。

 歩けど歩けど、目的地にはつかない。
 進めど進めど、夢のような場所は遠ざかるばかり。
 それどころか、通路は狭くなり、視界は暗くなる一方だった。

 思い出が閉ざされていく。
 いや、思い出によって、進路が鎖されていく。
 いやだ、こんなに冷たく、光のない路地裏で立ち止まりたくはない。
 わたしは認めなかった。
 常識に照らし合わせれば、たかが裏道を一本抜ける程度で、これほどおぞましく景色が変わることなどあり得ない。
 しかし、わたしは認めたくなかった。
 この世界が狂ってしまっているかもしれない可能性も、わたし自身が狂人となってしまった仮定も。
 風景は溶解するように、崩れて、ただれて、形を失っていく。露になっていく骨格は乳白色で、まるで本当に、生き物の骨みたいだ。
 もう二度と、退屈で、愛しいホームへは戻れない。
 道は無くなってしまったし、第一もう、こんなにどろどろのからだでは、ドアノブさえにぎれないじゃないか。



『 路草 』
(最後に残された理性の糸が、ぷつんと切れる。その絶望はあまりに甘く、幸せですらあった)----------------------------------------------------
某所にてサイトイメージ小説という言葉に惹かれ、毛糸さまに書いていただきました。
ミチクサという単語から普通はほのぼのな雰囲気が連想されがちだったのですが、拙宅にホラーがあった縁もあり、ホラーテイストで書いていただきました!
こんなじわじわな恐怖感、私も書いてみたい!!

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