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 参

 今日は普段より鞄が重い。

 それは主にわたしの気分の問題で、パソコンが入っているという物理的な理由はあまり関係ない。つまり茅ヶ崎と新芽先輩に付き合うのに疲れてしまったわけだけれど、そんなことはさておいて。


「ただいまー、っと」

「あ、お、お帰りなさい」


 扉を開けると、お琴ちゃんは赤い着物に真っ白な割烹着を重ね、ぎゅっと袖を捲って立っていた。慌てたように目を見開くと、大きな瞳は落っこちそうですらある。
 わたわたと動揺しながら、彼女は袖を元に戻す。白が踊り、手首まですっぽりと割烹着で覆われた。飾り気のない格好も可愛らしく見える辺り、流石座敷わらしとでも言うべきだろうか。

 彼女が立った台所には、使用済みの感があるまな板と包丁が置かれている。それを見るにどうやら、今晩は肉料理に変更になったようだ。


「えと、今日はお早いお帰りですね、サワさん」

 蛇口を回して、お琴ちゃんはまな板と包丁を洗った。
 ザア……、と水が汚れを流し去る。


「びっくりしちゃいました。えへへ」


 と、彼女は振り向いて笑ってみせる。けれど彼女の言う通り、驚きを隠しきれていない笑顔は何処か不自然に見えた。


「そう言えば、お弁当の唐揚げ、美味しかったよ」

「あ、本当ですかー?」


 弁当箱を取り出して、お琴ちゃんと入れ替わって台所に立って伝えると、のんびりした言葉が返って来た。

 何もかもお世話になってばかりじゃ申し訳ないから、弁当箱を洗うのはわたしの仕事にさせてもらっている。
 それを提案したとき、彼女は少し不満そうな顔をしていたけど、結局何も言わずに頷いてくれた。従順だ。


「友達と先輩に半分くらい食べられちゃったんだけどね」

「それじゃ、明日から大きめのお弁当を用意しましょう」


 緊張が溶けたらしく、冗談めかして彼女は言った。声が踊っている。振り向けばきっと、満面の笑みでわたしを見つめているのだろう。

 洗剤を垂らしたスポンジを滑らせる。泡からは、強く強くオレンジが香り立った。深く息を吸い込むと、香りがきぃんと突き刺さる。
「ねえ、お琴ちゃん」

「何ですか? サワさん」


 お琴ちゃんを振り向いて笑い掛ける。思った通り、愛らしい表情が目に飛び込んでくる。

 多分彼女は、彼女が隠しているつもりのことにわたしが勘づいているなんて、気付いていない。
 だからこそ、わたしはこうして笑っていられるわけだけど。

「お琴ちゃんみたいな座敷わらしがいてくれて、本当に良かったよ」


 そう伝えると、困ったような顔で、彼女は曖昧に笑った。







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巫さんにリクエストさせていただきましたら、こんな素敵なお話をいただいてしまいました(*´∇`*)

「ほのぼの+ホラー」という今考えてもかなりの無茶なリクエスト内容ですよね…

私なら無理だ…orz
でもさすが巫さん!!
こんな無茶なリクエストに答えていただき、しかもリク内容にピッタリなお話…っ!

巫さんの文字間とか言葉の使い方とか見習いたいです(>_<)
お琴ちゃんも可愛い!!

巫さんありがとうございます(*^o^*)



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