「――…なぁイヅル、喉渇けへん?」

ある晴れた昼下がり、片付け終えた書類を束ねていた吉良は不意に掛けられた言葉に顔を上げた。

「…あ、なら今お茶を用意しま「あー、エエねん。たまにはボクが淹れたるからイヅルは大人しゅう待っとり」

「や、でも隊長にそんなッ」

「エエ言うたらエエんよ、イヅルは座っとき」

立ち上がりかけた吉良を制止しニンマリ笑みを浮かべた市丸は席を立ちお茶を淹れに給湯室へと姿を消した。



……………。



「――…イヅル、お待ちどおさん」

普段されぬ行為に暫くソワソワしながら給湯室の入り口を見つめているも機嫌良さそうに現れた隊長の姿に内心ホッとし、差し出されたお茶に素直に『有り難うございます』と頭を下げ湯のみを受け取り口に運びかける……も何やら感じる熱ーい視線。


「…………」

「……どないしたん、早よ飲み?」

「…毒でも仕込んだんですか?」

「なっ、イヅル酷いわッ!ボクはただ頑張ってるイヅルにせめてもの労いを思て…っ…」

冷たい視線を送ればあからさまな泣き真似をする市丸に小さく溜め息を漏らすも淹れられたお茶が冷める事も考え渋りつつお茶を口にする吉良……をやはり見つめる市丸。

「…………」

「…隊長、凝視し過ぎです………でもお茶は美味しかったです、有り難うございました」

苦笑気味な表情を浮かべつつ湯のみを机に置いては再度お礼を伝え、纏めた書類を提出する為に立ち上がり吉良は部屋をあとにした。




「―――………何やねん、いつものイヅルと変わらんやん…」



一人部屋に取り残された市丸は小さく愚痴り己の席に座る。
不服げな表情で背もたれに体を預けつつ袖から出した小さな瓶に書かれた細かい文字に目を通す。


「処方の量も間違ってへんし…――」


それは数日前、偶然現世で出会った怪しげな雰囲気の漂う下駄の男から買った品…その薬を飲まされた者は最初に見た人間に惚れる、という美味しい話に釣られ購入したはいいものの結果は失敗。


「こないなモンで人の気持ち惹ける訳ないわなぁ…期待して茶ぁまで淹れて…ボク阿呆みたいやん…………あーあ、しょーもな。こないなモンいら…………ん?」


一気にやる気を無くしグタリと椅子に体を委ね、期待を裏切られた腹癒せに近くにあった屑籠へと小瓶を投げ捨てかけた――その時。
瓶の底に書かれた、読み漏らしていたのであろう一文が目にとまり不服げだった表情は一変、普段以上の深い笑みが浮かべられた。




惚れ薬
(※最初に見た相手に対し既にベタ惚れな場合には効果がみられません。)



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浦原さんとギンの過去ストーリー完全無視な作品(笑)



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