月も無ければ星すら無いただ暗く塗られた夜空から舞い落ちる白い雪がひんやりと何処か痛ささえ感じる寒さに拍車を掛ける。
「…寒い」
必要最小限の家具の置かれた簡素な室内、灯りの消えたそこで敷かれた布団に寝そべり掛け布団に身を包む其れは小さく言葉を発した。
血の気のない指先に息を吹きかけ、自分でも嫌になる程冷たい足先を擦り合わすも一向に温もる気配のない身体。
寒さに身を支配され眠る事も出来ず、温もらぬ自身に苛立つ…。
寒い。
寒い、寒い、寒い…。
(…嗚呼、せや…)
ふと思い立ったように体を起こせば布団は剥がれ落ち、身を切るような寒さが体を包む…がしかし、其れを気に留める事なく立ち上がるとゆらりと部屋の襖を開け雪の降り続く闇に姿を消した。
陽も遠に暮れ、格子から見える世界は闇と白い雪のみ。
時折感じる霊圧に夜回りの者へと労いの意を感じながらも書物を読み終えた吉良は静かに寝支度を始めた。
書物を収め寒さを和らげようと肩に掛けた羽織りを外すとひんやりと感じる外気に僅かに肩を震わせる。
熱が逃げる前に早く寝てしまおう、そう思い部屋の灯りを消した瞬間先程までの夜回りの者とは違う霊圧が近付く事に気付く。
「……イヅル、起きとる?」
音も無く部屋の前に現れた其れの特徴ある喋り方に推測は確信へと変わる。
「起きてますよ…こんな時間にどうしたんですか?」
相手が分かれば例え狸寝入りしようともきっと無断で部屋へと侵入するのだろうと思い即答しながら襖を開ける。
…と同時に倒れ込むように此方へと抱き付いてくる其れに流石に付き合いが長い仲といえど困惑の表情を浮かべた。
「…隊長?どこか具合でも悪いんですか?」
「…………寒い」
「…は?」
「ボクむっちゃ寒いねん…」
突然現れたかと思えば何を…、と一瞬湧いた緊張感が音をたてて崩れていくのを感じながらも背に回された手や体に密着する箇所から感じる相手の体温は確かに冷ややかなもので。
分け与える程の温もりを果たして己が持っているのか、と考えながらも震える体を擦り寄せてくる其れは普段とは違いあまりに弱々しく思えた。
「…中、入って下さい…こんなところに居ては二人して凍死してしまいます」
震える相手を促すように室内に入れ、寝入る寸前だった布団へと座らせ掛け布団を被せる。
けして体温が高い訳ではない吉良は温かいお茶でも淹れよう、と身を離そうとする………がしかし、立ち上がりかけた体は強い引きに負け再び相手の腕の中へと引きずり戻される。
「…イヅル、行かんといてや…ボク寒いねん…」
「ですから温かいお茶でも……」
「…そんなんいらん…イヅルが居ったら温かいんよ…せやから傍居ってや…」
駄々をこねる其れは子供のようで、震える身体にただ小さな温もりを求め縋るように吉良を抱き寄せる。
嗚呼、この人はきっと……。
時折あなたの籠になりたいと思う
「なぁイヅル、一緒に寝てもエエ…?」
「…今日だけですよ」
(神様、人の心の温め方を教えて下さい)
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管理人が寒かったから書いた話(笑)
内容は濃いけどたまにはツンじゃないイヅルと変態じゃないギンが書きたかっただけっていうオチ。
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