窓から吹き込んだ風に癖のある茶髪を揺らしながら授業中の人気の無い校内を進む。
長い廊下を暫く行けば目的の部屋へと辿り着きゆっくりと扉を開く。中の人物は一瞬此方に視線をやり、あからさまに嫌悪感を纏った表情を浮かべた。


「――……何しに来たんや」


自身の席に着たまま此方を確認だけすると書き途中だったのであろう書類に再び視線を戻し平子先生は何事も無かったかのように執筆を再開して気怠そうに言葉だけを僕に投げかける。


「…先程僕のクラスの黒崎君が此方でお世話になったと聞いたもので…」

「あー…一護か。それやったらもう手当てして教室返したで。あんまはしゃぎ過ぎんな言うといたれ」


はあ、と吐き出される溜め息。さらりと流れる金髪を掬い耳に掛ける些細な仕草さえ目を惹くには十分過ぎる行為だ、と貴方はご存知ですか?
そうします、と応えてはみたもののそんな事はどうだっていいんです。目の前の書類ばかりに目を向けて、無防備でいて、僕の行動なんて興味無いように…貴方は何も解っていない…罪な方だ。

ゆっくりと動かした足を廊下とは反対の方向へと進める。眩い陽の光が差し込む白い室内に響くのは僕の足音と平子先生が走らせるペンの音だけ。それはまるで世界にふたりしか居ないような錯覚を見せ、僕を惑わす。


「――……いつまで居んねん」


そっと、僕が背後に立った事で漸く此方の行動に気付いたのか平子先生はやはり執筆の手を止める事無く声を掛ける。
白衣を纏った癖のある猫背。手を動かす度揺れる長く美しい金髪。――嗚呼。


「一護は教室戻った言うて…」

「僕が心配なのは彼ではなく貴方です」


そっと肩に手を添えて体を屈め、金髪に見え隠れする耳元に低く甘く囁き掛ける。それだけで肩をぴくんと揺らす…そんな様子に小さく笑みが漏れた。


「何、言うて……んッ!」


振り向き様。キッと此方を睨む平子先生の視線を視界の隅で感じながらも其れを無視した僕は伸ばした手でほっそりとしたラインの顎を掴み、半ば強引な口啄けを贈る。
柔らかな唇、僅かに鼻を擽るブラックコーヒーの香り、羞恥に染まる頬。
存分に堪能し唇と顎を解放すれば桃色の頬と鋭い眼孔を此方に向ける愛しい貴方の顔を視界に収めた。


「――…ッ…い…きなり何しとんねんハゲっ!!」


開口一番吐き出される悪態に怯みかけながらも溢れ出した感情は萎えを知らず、僕はそっと目の前に座る平子先生を抱き締める。ハゲだボケだ離せだ何だと喚き、胸元を押したり叩いたりと抵抗する姿。
それが照れ隠しと解っていても、胸を抉られる僕は…きっと貴方が思う以上に貴方に溺れているのでしょうね…。


「…隙だらけの貴方が…心配なんです」


ぽつりと、唇から零れた想い。
暫く腕の中で暴れ悪態を吐いていた存在は、肩に頭を預けうなだれ、切に囁く僕の姿に気付いたのか漸く抵抗を止め大人しくなった。






「……オマエは…阿呆か」






再び静まり返った室内に呆れたように響く心地良い貴方の声。
まるで駄々をこねる子供か何かのように肩に顔を埋めたまま緩く否定的に首を振ればわざとらしい溜め息が耳元で吐き出される。






「せやったら大莫迦モンや」







「…僕は…阿呆でも莫迦でもありませんよ…これでも国語教師なんですから…」







「……阿呆とも莫迦ともちゃうんやったら……もっと俺を信頼せぇやボケ…」







小さくぶっきらぼうに呟かれた声に続くようにくしゃりと癖のある茶髪を撫でた指先に小さく肩を揺らし、視線を上げる。ゆっくりと、視界に貴方を収めた…次の瞬間。



「――…んっ」



それは、一瞬の出来事。
愛しい貴方の顔が視界を支配し、若干乱暴ではあるも押し当てられたのは紛れもなく先程己が強引に塞いだ其れで。
直ぐに晴れた視界に何が起こったのかわからず数回瞬いていれば真っ赤な顔を隠すように椅子に座り直し背を向ける貴方の姿。


「……こないな事するんはオマエだけで十分や……」

「……っ!」


小さく呟かれた言葉が、嫉妬に染まった僕の心を溶かす。
僕はこんなにも…愛されているんだと…。

再び執筆を始めた背中。それが酷く愛しく感じ背後から、ぎゅっという効果音が響きそうな程に抱き締めた。




「――……ちょ、何すんねん!エエ加減離せやっ!」




「平子先生…愛しています…」




「……っ!!……そないな事、知っとるわ…」




僅かに開いた窓から吹き込む風に弄ばれ頬に触れる柔らかな金髪に、ありったけの愛を籠めて、そっと口啄けを贈った。








僕の愛しい愛しい可愛い人。

願わくばこの先もずっと僕だけを…――


( 神様、どうか愚かな僕にこの人を信じる勇気を ください )









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国語教師藍染×保険医平子


…うん、何かごめんなさい←
藍平が書きたかったのに何あれ惣右介じゃねぇ(笑)
またリベンジしよっと…´`





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