その男は 今夜も 僕 を、抱く。



にたり、愚か者を見下げ笑う月に照らし上げられ闇に浮かび揺れる銀色は優しくも手荒に僕を押し倒し無抵抗な僕は簡単に蒼々と草花の生い茂る其処へと倒れこんだ。

纏う闇を破り捨て、曝け出した肌は陶器のように白く滑らかで。
其処にまるで足跡を残すように真っ赤な華を点々と咲かせてやれば天に昇った月よりも弧を描いた唇が満足げに僕を見下ろした。


僕の躯に咲き乱れた華と同じように真っ赤な瞳は酷く濁り 狂い 歪み、僕はただ彼が行い易いよう彼の下慣れたように自ら脚を開き其れの侵入を促してやる。


重なる唇

繋がる躯

されど、されど

いくら交わろうと
決して結び合わない心。


額に汗を滲ませ、欲望のまま本能のまま己をぶつける其れはまるで飢えた野獣。ならばその野獣の下、内臓を抉り喰われる僕は群れからはぐれた無力な子鹿か はたまた独りきり迷子になった小さな兎か。

何度となく浅くまで引き抜かれ腸を突き破る程深く突き入れられ、どちらのものかわからぬ体液に身を汚し合い。

一時的な感情の高ぶりから紡がれた愛の無い愛の言葉に酔いしれる僕を人は謂うんだろう、哀れな男だと…。






嗚呼、けれど
僕 は幸せ なんだ。






例え貴方が僕を 愛して いなくても。


例え 誰でも良かった のだとしても。


例 え此がただの 恋愛ごっこ だったとしても。





注ぎ込まれた焼ける程熱い液体は酷く僕の躯を支配して。
愛して、愛して、とまるで無知な子供のように、壊れた人形のように、繰り返す彼を抱き締めてその唇をそっと塞いだ。





彼が望むのならどんな愛も捧げよう。

彼が望むのならこの身などくれてやろう。

彼が望むのなら彼への想いを握り潰そう。



嗚呼、僕は幸せなんだ。



それでもう、彼が独りで泣かずに済むのなら……そう、きっと。




ずるり、欲望を吐き出した躯が離れた時、彼は嗤い僕は啼いた。

(見下した月は浅はかな僕の涙を嘲笑った、)







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