…おかしい…。




静まり返った室内にはボクとイヅルの二人きり…ただ筆の走る音が響く。
ボクは隊首席に深く腰掛けたままカレンダーに視線をやり本日何度目かの日付確認をした。


今日はホワイトデー。

現世でバレンタインデーと対を成しているこのイベントは男性が女性にバレンタインデーにもらったチョコのお返しを渡す日…。

最近では大分現世のイベント事が浸透しだしておて、今日という日を楽しみにしている女性も少なくはない。


とはいえ…当然普通なら男のボクがそんなイベントにワクワクしたりドキドキしたりする筈無いんやけど………今年のホワイトデーはいつもとは違うねん。













それは1ヶ月前のバレンタインデー。












「なぁイヅル〜」


あの日も今日みたいにイヅルは書類整理に追われとって。
そんな日はあんまり執務室に近付きとおないんやけど、その日は違った。

ボクは乱菊に習ってピンク色の可愛らしいラッピングした箱を手に一生懸命仕事してはるイヅルに抱き付いた。



「………隊長…邪魔です。」


「なぁなぁ、今日バレンタインデーやろ?ボクな、今日チョコ用意してん♪」


全身からウザったいといわんばかりのオーラを放つイヅルを無視して満面の笑みで返したら「あーそうですか」なんて冷ややかな言葉だけが返されまた書類に視線を落とすイヅル。






……………。






「ちょ、ちゃんと構ってやーッ!」






「…これイヅルのなんやで?」






「ボクな、イヅル大好きやねん」






「ボクと付き合おてほしぃなぁ思て」






「せやから今日はチョコあげに来たんよ♪」






構ってほしゅうて抱き付いたまんま体揺らしたり声かけたりしとったらさっきよりどす黒いオーラ放つイヅルがやっとこっち向いてきたん。




「――……隊長…書類整理の邪魔する暇があるんなら……仕事して下さいっ!!」




あー、ほらな?
せやからこういう日は此処来たないねん。


なぁんて呑気に考えながら…チョコだけイヅルの机に置いて脱兎の如く姿消したボク♪
なんや後ろから怒鳴り声やら聞こえた気ぃしたけどその日はチョコ渡して告白しに執務室行っただけやったからエエねん。





で。





1ヶ月前のバレンタインデーに一生一代の告白をしたボクは今日その返事もらえるんちゃうか思て自分で言うのもなんやけど、珍しゅう執務室に居すわっとる(ゆーても遅刻はしてもおたけど)


せやのに…ボクの気持ち知ってか知らずかやっぱりあの日と変わらずただただ書類に視線を落として黙々と仕事しとるイヅル。
お陰で気付けば外はもう陽も落ちだして執務時間ももう直ぐ残業に突入する時刻。


もしかして今日がホワイトデーっちゅうん知らんのやろか……?




………否、確か昼間五番隊副隊長はんにバレンタイン有り難うとか言いながらなんや渡しとったから知らん訳やない…………なら何でや?




机に片肘ついて頬杖しながら悩ましげに眉間に皺寄せた表情で仕事してはるイヅルに熱い視線を送り続けるボク。



…………。






……………。






………………。






「…隊長ウザいです」





…………。






………なっ!?





「朝から思ってたんですが、ずっとそうやって…暇ならちょっとは書類整理して下さい」





……あかん、今日イヅルが何やめっちゃ冷たいんやけど。


ボク何かしたか?











心当たり多過ぎてわからんわ。

せやけどいっつも怒らん事ばっかりやん、何で今日に限ってそない冷たいんよ…。


「……はい、これくらいやって下さい。僕ちょっと他の隊に書類提出に廻ってくるんで帰ってくるまでに其れ終わらせておいて下さいね?」


「…な、ちょっ…イヅルッ!!――……はぁ、行ってしもた…」


本日初めてイヅルから貰おたんは山積みの書類達。

何やボク今相当凹んどる。
ぐったり机に突っ伏して…多分今酷い顔しとる思うわ。



"フラれた"



思ぉたらエエんやろか。



まぁこない駄目上司好きんなる要素無いわなぁ…。



ポツリ漏れた溜め息。
其れでも完全に嫌われとぉないボクは置き去りにされた書類に手をかけた。







…………………。





…………。






「…………遅くなってすいません、只今帰りました」

書類提出を終え漸く自隊の執務室に戻った時には既に陽も落ち、月が空に顔を出していた。
扉を開けながら声を掛ければ返事が無い。
帰ってしまわれたか、と考えた刹那…隊首席に突っ伏し小さく揺れる銀色が一つ。

「――……こんな所で寝て…風邪ひきますよ?」

そっと近付けば静かな寝息にふっと困った笑みを漏らしてしまうも起こす気はなく、そっと呟く程度に声を掛ける。

眠る隊長の隣には先程置き去った書類の山。
其の全てに自分のものとは違う綺麗な文字と印が押されてある。

(…やれば出来る方なのに…)

再び小さな悪態を浮かべながらも表情は柔らかく、誉めるように優しい手付きで揺れる銀髪を撫でてやる。

(…今日はちょっと意地悪し過ぎました)

ふわりと頬にかかる髪を避けると現れた表情は何処か寂しげに見え、イヅルは心の中で小さく謝罪する。

彼が一日、何を期待していたのかは朝からわかっていた。
しかし普段から仕事をせず、悪戯ばかりする彼に少なからずストレスを与えられていたイヅルは少々お灸をすえようとワザと一日冷たく接したのであった。


イヅルは一度自席に戻ると隠すように置かれていた白く綺麗にラッピングされた小さな箱を手にし、再度ギンの傍へと歩み寄る。
そして声をかけようと一度肩に手を添えた…ものの、無防備に眠る姿に不覚にも可愛らしいと思う自分に気付きそっとその手を退いた。


もう少しだけ、このままで。








見つめる貴方の唇が一瞬僕の名を呼んだ気がして思わず口元が緩んだ。


君の笑顔まであとちょっと
(目を覚ましたら、ちゃんと僕の気持ち…伝えますね?)



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………長っ←

ハイッ、ホワイトデーネタでした*
最近ちょっと黒いイヅルが好きです…´`



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